投信1編集部による本記事の注目点
- 東芝メディカルシステムズ(TMSC)を昨年12月に子会社化したキヤノンは、先ごろ17年12月期の中間決算を発表。17年1~6月のメディカルシステムビジネスユニットの売上高は2203億7200万円となりました。
- キヤノンは、従来は産業機器その他部門に含めていた医療機器にTMSCを加えて「新生ヘルスケア事業」として拡大し、中核事業へと成長させることを目標としています。
- 国内のCT市場(14年、金額ベース)ではTMSCがシェア57%でダントツの首位。また、14年の世界市場では、1位シーメンス、2位GEヘルスケア、3位東芝となっています。
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キヤノンは、2016年12月19日に東芝メディカルシステムズ(TMSC)を子会社化し、先ごろ17年12月期の中間決算を発表した。17年1~6月のメディカルシステムビジネスユニット(医療事業部門)の売上高は2203億7200万円となり、売り上げに占めるシェアは11.2%に達した。また、営業利益は101億円。17年12月通期のメディカルシステムは、売上高4400億円、営業利益210億円を見込んでいる。
キヤノンは、1940年に国産初のレントゲン撮影用カメラの開発を皮切りに、X線撮影装置や眼底カメラなどの眼科機器を手がけてきたが、今回の半期売上額の大半はTMSCによるものと見ていい。キヤノンは、16年から新たな5カ年計画「グローバル優良規模グループ構想 フェーズV」をスタートさせており、現行事業の再強化を図るとともに、新規事業の育成に取り組む。TMSCを加える以前は産業機器その他部門に含めていた医療機器であるが、TMSCを加えて「新生ヘルスケア事業」として拡大し、中核事業へと成長させる目標である。
TMSCのCTにはあのロックバンドが貢献
TMSCは、国内ダントツ首位、世界3位の全身用CT装置をはじめ、MRI、超音波診断システムなどを開発・販売している。
TMSCのCTを遡ると、世界初の商業的なX線CT装置であるEMIスキャナーにたどり着く。これは、72年にEMI中央研究所(イギリス)で開発されたものであるが、EMI社は傘下にEMIレコードを持ち、60年代に世界中を熱狂させ、今なお多くのファンを魅了するビートルズが所属していた。ビートルズがもたらした利益の一部をCTスキャナーの開発資金にも充当したとされ、CTは「ビートルズの最も偉大な遺産」ともいわれている。
東芝EMIレコードでつながりがあった当時の東芝は、75年にEMIスキャナーを輸入し、東京女子医科大学病院に納入。その後、TMSCが国内で生産を開始した。
CT市場(14年、金額ベース)は、国内ではTMSCがシェア57%、シーメンス16%、GEヘルスケア15%、日立製作所9%、フィリップス3%と続く。16年度のハイエンド装置から普及型装置までの出荷台数では、東芝594台、日立204台、GE183台、シーメンス109台、フィリップス19台(自治体病院共済会ニュース17年6月15日号)となっており、日立は中小病院を中心とする16~64列の普及モデルが主力なため、台数が多い。
国内市場は、一般社団法人日本画像医療システム工業会のデータによると、02~16年まで480億~680億円のレンジで増減している。また、14年の世界市場では、1位シーメンス、2位GEヘルスケア、3位東芝、4位フィリップス、5位日立製作所で、16年は1位と2位のみが入れ替わったもようである。
320列から4列までフルラインアップ
TMSCは、320列から4列までのCT装置を幅広く展開しており、16年4月には、世界首位を狙う320列CTの戦略機種「Aquilion ONE GENESIS Edition」を発売した。高いスループットを実現し、画質向上と被ばく量低減を両立する「Pure Vision Optics」を搭載するとともに、780mmの広い開口径を同社の64列CTより小型のガントリーで実現し、設置面積を従来比44%減の19m²に収めた。
エリアディテクター搭載のAquilion ONEシリーズは、誕生10年で1200台の販売を達成した。
マルチスライスCTでは、ベストセラーの80列(160スライス)、32スライスシステムまでの豊富なAquilion、さらに、中小医療機関や新興国向けの16列、4列のAlexionの各シリーズを揃え、4月には世界初の高精細CT装置 Aquilion Precisionの国内販売を開始した。
世界展開には価格とメンテナンス体制が重要
世界の全身用CT市場は、ほぼ前述の5社で占有しているが、TMSCにとって有利なのは、14年の全身用CTの国内設置台数が1万3636台で、人口がほぼ3倍の米国の1万3065台を上回りトップであることである。しかし、国内市場は売り上げが増減しながらほぼ安定し、欧米も同じ傾向にある。先進国では、CTは一巡し、買い替え需要と普及・廉価モデルの投入による健診施設や診療所といった新規顧客開拓が中心となっている。
これに対し、人口が多いアジア、東南アジア、南アジアなどの国々が、経済成長とともに多くの医療施設の新規整備を進めることから、CTに限らず大型医療機器をこれら新興国で浸透させることができるか否かが今後の業界勢力図を決めることになる。
インド初の日系企業病院「サクラ・ワールド・ホスピタル」を14年3月にオープンしたセコム医療システムの布施達朗代表取締役社長は、「建設費や医療機器などで60億円を投じ、このうち医療機器に15億円を充てたが、価格面、メンテナンス体制いずれにおいても欧米メーカーに分があり、日本製の大型医療機器は導入できなかった」と述懐している。新興国市場への大型医療機器の展開は、機器の性能とともに、物流からアフターメンテナンスまでを含めたコストパフォーマンスとサービス提供体制を確立することが重要である。
キヤノンがグループ総力を挙げサポート
キヤノンがヘルスケア事業を今後大きく育てていくためには、ヘルスケア分野のCTやMRIなどの画像診断装置市場において、欧米大手との競争に勝ち抜いていかなければならない。そのための必要な経営資源は、キヤノングループの総力を挙げて支えていくとしている。
さらに、キヤノンは国家プロジェクトに認定された光超音波トモグラフィーや米国子会社で開発を進めている遺伝子検査などの技術を保有しており、TMSCの研究開発力を融合することで、早期の事業化を目指すとともに、キヤノンの中核事業に育成する計画だ。
電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次
投信1編集部からのコメント
医療機器事業は、グローバルではM&Aを中心とした資金調達の競争が主になっています。そのような中、財務体質が安定しているキヤノン傘下で、今後TMSCがどのような展開を見せるかが注目されます。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
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