最近3年ほどミャンマー出張が多く、ヤンゴン空港とシンガポールのチャンギ空港間のフライトをよく利用します。そこでは時折、日本人としては多少面喰らうような異文化体験をしています。

ミャンマーでの搭乗最優先は僧侶

日頃よくあるのは、フライト搭乗ゲートで順番待ちをしているときにミャンマーの独自ルールの存在を感じることです。

搭乗ゲート前で出発を待っていると、ミャンマーではまず僧侶が優先的に搭乗します。通常はビジネスクラス、体の不自由な方、小さい子供連れの方などが優先的に搭乗ゲートに通されますが、敬虔な仏教の国ミャンマーでは違うのです。

これは慣習なのか法令なのか、最初はよくわかりませんでした。”どこにそんなルールがあるんだ”と心の中で叫ぶこともしばしばでしたが、そのうち、まあいいかと慣れてしまいました。

最近、ふと思い出して博識なミャンマー人の友人に尋ねてみたところ、答えがわかりました。何とミャンマー航空法に明記されているそうです。さすが仏教国と納得した次第です。

日本を離れて生活して度々感じるのは、自分がいかに宗教の問題について無知かということです。私が住んでいるマレーシアの国教イスラム教についてはもちろんですが、感覚的に近いと思っているミャンマーの上座部仏教(小乗仏教)ですら、理解が浅いと反省することが多々あります。

ミャンマー上座部仏教は、現世で功徳を積むことで来世の幸せを願う「来世信仰」です。功徳を積む方法としては、僧侶への托鉢やお寺や僧院への寄付などが一般的です。最高の功徳は仏塔(パヤ−)の建立です。

さらに、僧院の建立、僧院への井戸や釣鐘の寄進、僧侶を招いて行う共同の食事の主催、僧侶へのお布施・・・。僧侶を優先搭乗させることも、きっと功徳を積むことにつながるのでしょう。

謎の集団で出発前の機内は大混乱

さて、今週月曜日はシンガポール航空でヤンゴンからシンガポールへ帰る時、宗教的な雰囲気の白装束の謎のミャンマー人集団と一緒になりました。140〜150人くらいはいたでしょうか、機内で指定席に着席すると私の周囲はその謎の集団で占拠されました。

 

結果から言うと、そのフライトの出発は1時間の遅延となりました。

なぜか。まず、大きな原因としては男性のツアーガイドが1人しかおらず、飛行機搭乗に慣れていない白装束の人々を1人でコントロールするのはどう考えても無理という感じでした。

たとえば、搭乗時に30列あたりでもたもたして動かない人たちは、フライトアテンダントが席番号を見るとなんと60列。あなた方はなぜ30列あたりで立ち往生しているのか・・・?

また数人の女性は、どうも好きな席に座りたいとダダをこね、いつまでも動きません。フライトアテンダントが、唯一のツアーガイドを通じて「フライトが出発してから席を変われるので、まず座ってください!」と言い続けていました。

さらに、ミャンマーの民族衣装では必須アイテムである、肩から斜めがけする小物入れカバンが問題になりました。

白装束の皆さんはカバンを肩から斜めがけにしてシートベルトを締めていたため、シンガポール航空のフライトアテンダントは、1人1人にカバンは前の座席下か、上の棚に入れるよう注意し続けていました。

あるフライトアテンダントは、私の右隣のおじいさんにも、そのことを英語と身振り手振りで注意しましたが、全く通じません。ちょうど付近に唯一のガイドがいたので、フライトアテンダントは丁寧なことば使いではありましたが、半分切れ気味で、「全員にカバンは肩にかけないで前の座席の下にしまうよう指導して!」と彼に言っていました。

しばらく観察していると、結局、シンガポール航空のフライトアテンダントは厳格に規則(カバンは持たずにしまう)を守らせました。かなり時間もかかり、少し切れそうになっていたフライトアテンダントも目撃しましたが。

私なら、相手の様子を考えて、もういいかなと妥協しそうなところです。新しい国・地域で仕事すると、現地ルールや慣習にある程度、歩み寄らないと仕事できないということは、体験した人なら誰もがわかることだと思います。

しかし、シンガポール航空のフライトアテンダントはさすがでした。シンガポール人の特性もあるのかもしれませんが、とにかく安全上必要な規則を守らせました。

余談ですが、途中ミャンマー語ができないフライトアテンダントでは太刀打ちできないということで、遅ればせながらヤンゴン空港の地上班の若いミャンマー人職員が2人(男女)駆けつけて機内に入ってきましたが、あまり役に立たずに終わりました。

白装束の人たちは何だったのか

宗教の匂いがする白装束の集団は、最初は少し不気味でしたが、隣のおじいさんと言葉は全く通じないながらも少しコミュニケーションをとってみると、怖い集団ではないことがわかりました。

まず、そのおじいさんは座席に着いてもシートベルトの締め方がわからなかったので、私が締めてあげました。また、その集団向けの機内食は特別だったようで遅れてサーブされたのですが、先に食事をすませた私がうとうと眠っていると、腕を軽くたたいて起こすのです。

何かと思えば、どうも出てきた機内食がものすごく美味しいということを私に伝えたかっただけのようでした。そんな悪意のない人たちでした。海外出張の楽しみの一つは、こうしたいろいろな異文化の人たちに巡り会うことです。

それにしても、結局あの集団は何だったのか。後で友人に尋ねたところ、白装束の背中のあたりに「Haji(=巡礼)」と記されていたことがヒントになりました。どうやら、ミャンマーのインド系イスラム教徒だったようです。

大場 由幸