膨張を続ける中国の過剰債務に国際通貨基金(IMF)が再び警鐘を鳴らしています。一方、米国が中国に対して通商法301条に基づく調査を開始しており、中国経済はまさに内憂外患となっています。そこで今回は、IMFの年次報告書を参考にしながら中国経済と米中関係の現況を整理してみました。

IMFが解説する中国経済の6つのポイント

IMFは8月15日、中国経済に関する年次報告書を発表し、要点として以下の6つを挙げています。

1. 成長見通しを上方修正
昨年のリポートでは2017年から2021年までの年間平均成長率を6.0%と予想していましたが、今回のリポートで6.4%へと大きく引き上げています。

2. 債務残高の伸びが加速
非金融部門(家計、企業、政府を含む)の債務残高の対国内総生産(GDP)比率は2016年の242%から2022年には300%近くへ上昇する見通しで、昨年の見通しよりも数字が膨らんでいます。

3. 与信の拡大が鈍化
中国政府が民間部門の借入返済を促す政策を講じた結果、与信の拡大が鈍化しています。数値目標を優先すべきではなく、成長の質と持続性が重要とした上で、借入の縮小は一層強化されるべきだとしています。

4. 貯蓄が高く、消費は極端に少ない
中国の国民貯蓄はGDPの46%と世界平均よりも26ポイントも高く、そのために消費の水準が低くなっています。国民に対する低水準な福利厚生が高水準の投資を支えており、その投資は効率的に活用される可能性が低いと指摘。もし投資が減少すれば高い国民貯蓄が大きな経常黒字を生み出し、グローバルな不均衡をさらに悪化させる恐れがあります。

5. セーフティ・ネット拡大で消費促進、所得格差を改善へ
健康と年金への政府支出の増大は家計が貯蓄する必要性を低下させ、個人消費の増加を促します。また、税制の累進性を高めれば、より高い社会支出を賄うことができ、世界でも高水準の所得格差を改善することも期待できます。

6. ゾンビ企業の淘汰は成長を1%押し上げ
IMFの試算によると、赤字の“ゾンビ”企業や設備過剰な産業、国有企業などへ振り向けられている資源を効率的に使うことで、長期的に成長率を1ポイント押し上げることができます。

持続不可能な債務膨張が予想外の高成長を演出

中国では過剰債務とシャドーバンキング問題が引き続き警戒されています。

今回のIMFリポートでは「中国の信用膨張ペースは危険であり、混乱を伴う調整か著しい成長鈍化、あるいはその両方をもたらすリスクが増大している」と述べ、公的部門と民間部門の債務を大幅に膨らますことで達成された高い成長率は健全性に問題があると指摘しています。

要するに、債務の膨張とそれに支援された高成長は持続不可能であり、高い成長率はその後の調整リスクをむしろ高めている恐れがあります。

持続可能なモデルへ移行するには、消費促進、国有企業改革、債務圧縮、財政政策の見直しが必要と、課題は山積しています。

また、今回のIMFリポートではシャドーバンキングの監督は「相当な前進があった」と評価しています。ただ、中国人民銀行(中央銀行)は7月のリポートでシャドーバンキングへの規制はまだ不十分として監督強化の姿勢を打ち出してます。

ただ、シャドーバンキングへの規制強化は長期的には金融システムを安定させる一方で、短期的には痛みを伴うリスクがあります。

上海証券報は8月18日、シャドーバンキング規制により一部地方銀行のバランスシートが大幅に縮小していると指摘しています。規模の小さい銀行ほどシャドーバンキングに積極的であったことから、取り締まりにはより大きな打撃を受けると見られています。

6月までは好調だった中国経済も、7月以降の経済指標には減速が目立ち始めています。債務の膨張に依存して高い成長を達成してきたものの、規制の強化で成長にブレーキがかかる兆しがうかがえます。

米中関係の悪化、日本にも飛び火で円高に?

今回のIMFリポートでは中国の貿易障壁や通貨管理をやり玉に挙げており、米中関係の悪化に火に油をそそぎかねない内容となっています。

IMFは中国に対して関税の引き下げや市場開放を求めており、貿易障壁を削減することが主要貿易相手国との摩擦緩和に役立つと指摘しています。また、為替に関しては過去1年で人民元の管理を強化したとし、市場に為替レートの形成を委ねる方向に政策を戻すよう提言しています。

IMFは、2015年の報告書では「人民元は過小評価されていない」と述べ、中国が人民元安を誘導しているとの見方を否定していました。今回の報告者はこの見方を方向転換したとも受け取れます。

ムニューシン米財務長官は2月、IMFに対して加盟国の為替政策を公平に分析することを求め、合わせて貿易不均衡の問題にも取り組むよう促しています。今回の報告書はまさにトランプ政権の意向を忖度したことを匂わせています。

このレポートの公表にタイミングを合わせたかように、米通商代表部(USTR)は18日、中国が米国の知的財産を侵害している疑いがあるとして、関税の引き上げを視野に入れて通商法301条にもとづく調査を正式に開始しました。

7月の米中包括経済対話が物別れに終わって以降、米中関係は急速に悪化しており、こうした流れを踏まえると10月の米為替報告書で中国を為替操作国に認定する可能性も否めないでしょう。

さらに、トランプ大統領は中国のみならず、日本やドイツに対しても為替操作を行ってきたと批判しており、この問題は日本へも飛び火する恐れがあります。

IMFは今年7月、日本に関する年次報告書で2016年の円相場はファンダメンタルズに整合的な水準となっていたと指摘しています。米大統領選挙前の約5カ月間、ドル円はおおむね1ドル=100~105円のレンジで推移しており、この水準を適当と判断している可能性がありそうです。

なぜなら、IMFが推計している購買力平価を見ると2016年のドル円は102.6円、2017年は100.8円となっているからです。米国側の求める為替レートの目安として、この数字は頭の片隅に置いておく必要があるのかもしれません。

LIMO編集部