好決算でも株価は下落

シリコンウエハー大手・SUMCO(3436)の2017年12月期上期決算が8月8日に発表されました。大方の予想通りの好決算で、中間配当も前年同期の5.0円から10.0円へ増配となっています。

この背景にあるのは、メモリーを中心とした世界的な半導体ブームの中、供給力に限界のある半導体ウエハーの需給ひっ迫が業績にポジティブな影響を与えていることだと考えられます。第3四半期(7-9月期)についても引き続き好調が予想されています。

同時に300mmウエハーの設備投資も発表されました。436億円の投資額で、伊万里工場において月産11万枚の300mm高精度ウエハーの増強を行うことが決定し、2019年上期の稼働を目指す計画です。足元の高精度ウエハーのタイトな需給を考慮すれば良いニュースと考えられるでしょう。

しかし、翌日の8月9日のSUMCO株は前日比▲11.2%下落の1,629円で引けました。この日の日経平均株価は▲1.3%の下落に留まった中で2桁の下落率となったわけですが、株式市場でどう判断されて株価が下がったのでしょうか。

2016年秋から続く半導体ウエハーの強い動き

スマホやデータセンターで使われる半導体の基盤は、ほとんどが高精度300mmウエハーです。この300mmウエハーの世界での需要は、2016年秋以降、強いトレンドを続けています。

2014年頃までは世界の300mmウエハーの月間生産能力は480万枚と言われてきましたが、2015年以降、需要は同500万枚を超えるのが常態化しました。

その時点で世界の生産能力は同520万枚まで上昇したとの見方が示されましたが、今やモニター・ダミー用ウエハーを含めて同550万枚まで拡大した模様です。目立った増産投資がなかったにも関わらず、実にここ数年で300mmウエハーの生産能力は月産70万枚も増えたことになります。

まっさらな状態から立ち上げるグリーンフィールドの投資に対し、既存の生産設備での設備投資をブラウンフィールドでの能力増強と言いますが、実質的な能力増強投資は既に始まっていると考えてもよいのではないでしょうか。

SUMCOの予想によると、2017年から2022年まで300mmウエハーの世界需要は年率+5.4%で成長するといい、2019年下期には世界中で60万枚強/月の300mmウエハーが足りなくなると試算されています。この通りにシナリオが進行すれば、供給不足が間違いなく顕在化するでしょう。当然、価格も投資負担を吸収できるレベルまで改善されると見られます。

こうした読みから出てきたのが今回の300mmウエハーの設備増強の発表と思われます。今後、半導体業界から要求されるウエハーは回路線幅10nm(ナノメートル)以下の高精細半導体で、この基盤になる300mmウエハーにも高精度の品質が求められますが、こうした要求に応えられるのは同社を含めて世界で3社に限られることも同社の背中を押したかもしれません。

歴史は繰り返すのか、それとも教訓を生かして大きく飛躍できるのか

2007年まで半導体ウエハーメーカーは未曽有の需給ひっ迫を背景に積極的な設備投資を行い、半導体業界からの注文に応えてきました、しかし、2008年のリーマンショックによって新設備の稼働率の低下→投資負担など固定費の著しい増加→決算の悪化に見舞われています。

それまでウエハー各社は価格と販売量に関して長期契約を交わしているという安心感があったようですが、このときは主力の300mmウエハーの価格が大幅に下げられるなど、顧客である半導体メーカーの業績悪化によって、いとも簡単にこの契約が効力を失った歴史があります。

一方、IoT時代を迎えている現在、半導体業界ではスーパーサイクル論が浮上し、少なくとも2020年までNANDフラッシュ、ロジック半導体を中心に成長が続くと予想する識者も多いようです。

そのため、半導体ウエハー各社の販売戦略においては、顧客との長期の契約を基に生産販売量・価格を決めることで設備投資負担に伴う決算リスクは避けられると考えているようです。この点からは半導体の堅調な需要がどこまで続くのかがカギとなります。

もう1つのポイントは、世界の競合メーカーの今後の動向です。各社ともブラウンフィールドベースで少しずつ能力を増やしている模様ですが、SUMCOによる大掛かりな投資計画の発表に対抗する形で、今後どのような投資計画を打ち出してくるかが気になるところです。

仮に新興の中国メーカーなども含めて同様の大規模な投資計画が発表されると、顧客側の半導体メーカーが価格面で強気の姿勢に転じる可能性もないとは言えません。

当分の間、半導体ウエハーの需給に変調の懸念はなさそうですが、8月9日にSUMCO株が▲11.2%下落したのは、前日に発表された同社の設備増強計画が世界の競合メーカーの設備増強競争を再燃させると懸念したからだと考えられないでしょうか。

石原 耕一