「インデックスファンドなら間違いない」「年齢を重ねるほど安全資産にシフトする」――少しでも投資の勉強をしてみたり、実際に投資信託を買った経験があるという方なら、こうした「投資信託の選び方」を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
当たり前のように信じられてきた投資信託選びの“常識”に真っ向から挑む本が今春出版されました。「世間に広まる投資信託の常識は間違いだらけ」、著者であり楽天証券経済研究所でファンドアナリストとして活躍する篠田尚子氏はそう断言します。とはいえ、一体なぜそのような“常識”が広まったのでしょうか。そして、これから資産形成を考える投資初心者は、どのようにすれば本当によい投資信託を見分けられるのでしょうか。篠田氏にお話を伺いました。
“常識”に沿った投信を買えば本当に「お金は増える」のか?
篠田氏の著書「本当にお金が増える投資信託は、この10本です。」で取り上げられている投資信託はずばりアクティブファンドのみ。調査などに手間がかかる分、アクティブファンドの信託報酬はそれなりに高いということや、パフォーマンスで見た場合にもインデックスファンドに及ばない、という説があることを考えるとかなり大胆な内容だという印象です。
篠田氏は「間違った認識を野放しにせず、きちんと投資信託を理解してもらいたいと考えたのが出版のきっかけです」と話します。単なるハウツー本で終わるのではなく、きちんと意識してもらうための「答」が必要だと考えて投資信託10本を紹介したのだそうです。
その篠田氏が言う「間違った認識」とは、ずばり「インデックスファンドでお金を増やす」という概念そのものです。篠田氏はこの「間違い」がここまで一般化した要因について(1)日本で投資信託を分析するファンドアナリストがしっかり育成されてこなかったこと、(2)これまでは金融機関で勧められた投信でそれなりにリターンを得られたこと、などを挙げ、そのうえでこう指摘します。
「もちろんインデックスファンドにも価値はあります。ですが、お金が増えるファンドの『答え』にしてしまうのはどうでしょうか。間違いない=優れている、ということなのでしょうか」
投資の「成功体験」がお金を増やすためには必要
篠田氏は「インデックスファンドを上回る高いパフォーマンスのアクティブファンドは存在し、それを見つけることが重要」だと指摘します。言われてみれば確かにその通りですが、これまでインデックスファンド中心に投資をしてきた人なら驚いてしまうかもしれません。もちろん篠田氏はアクティブファンドだけで資産形成することを推奨しているわけではありません。篠田氏が主張したいのは、アクティブ=悪ではない、という点です。
「預金、株式、投資信託などへの分散投資はするべきですし、日本円と外貨も組み合わせるべきです。同じように、投資信託もインデックスとアクティブのそれぞれの『いいとこどり』でよいのです。アクティブファンドに悪いイメージを持っている人も多いと思いますが、うまく取り入れてほしい」(篠田氏)。
その理由として、篠田氏は「投資の成功体験」こそが資産形成につながるからだと話します。
「低コストのインデックスファンドから投資を始めた人はその後投資をやめてしまうケースが多いのです。本当に正しいかどうか確信が持てないまま、5%~10%くらい上がったところで利食いをして終わり。これは試してみただけ。成功体験にはなりません」
高いパフォーマンスが期待できる投資信託を見極めて投資し、実際に大きなリターンを得られれば、またやってみようという気持ちになる。こうして好循環が生まれ、投資による資産形成が促進されるというのです。
お金が増える投資信託を見極める力、どうやって身につける? ポイントは?
では、どのようにすれば、お金が増える投資信託を見極められるのでしょうか。篠田氏は、投資初心者ならまずは「投資信託はなんぞや」を理解すること、そのうえで「為替」の影響を受けない国内株式型やJリート型から優れたファンドを探していくとよいといいます。
「私たちは日本人ですし、日本円で投資しないといけません。そこを見誤ると確実に失敗します。為替の影響がないアクティブファンドにはよいものが結構あります。逆に先進国株式型だとインデックスのほうがよかったりします」(篠田氏)。
投資信託についての勉強をするなら、投資信託協会に請求するともらえる無料のパンフレットのほか、金融機関のホームページなどでも説明されているので一度見てみるとよいでしょう。
「最初にちょっとだけ頑張って冊子に書いていることマスターすれば、よっぽどのことがない限り、まず失敗はしません。自分の資産をかわいく思ってもらいたいし、ステップアップしてもらいたいとも思いますから、最低限の知識は身に着けてほしいですね」、そう篠田氏は力を込めました。
まとめにかえて
「株式投資は勉強するのに、投資信託は若い人ほど勉強しない」――今回のインタビューで篠田氏からはこんなコメントも飛び出しました。「『投資信託はプロが選定して運用するから安心』と言い続けてきた私たちの責任でもあります」(篠田氏)。
人生100年の時代。老後を「長生きリスク」の期間ではなく、「必要なお金をしっかり育て、使うときは使い、残すものは残す」という期間にできるかどうか。与えられた情報だけでなく、私たち自身が能動的に学ぶことも必要になってきているといえそうです。
著者:篠田尚子
出版社:SBクリエイティブ
単行本:224ページ
LIMO編集部