ふるさと納税の寄付総額は2884億円。過去最高を更新
総務省は2017年7月4日、2016年度のふるさと納税に関する調査を発表しました。それによると、寄付総額は2844億円と4年連続で過去最高を更新し、15年度比で70%以上も増えています。
もっとも寄付金が多かったのは2年連続、宮崎県都城市で、16年度の寄付額は73億3000万円あまりでした。以下、2位・長野県伊那市(72億円)、3位・静岡県焼津市(51.2億円)、4位・宮崎県都農町(50億円)、5位・佐賀県上峰町(45.7)などが続いています。
これらの自治体が寄付金を集めている理由は、返礼品が充実していることです。都城市は宮崎牛や焼酎が人気です。長野県伊那市はテレビなどの家電製品が返礼品であることが注目されました(現在は取り扱いを廃止)。
都城市の15年度の地方税収は約188億円です。ふるさと納税で集めた73億円はその4割にもあたります。このような効果が注目され、各市町村の寄付金の獲得競争は激しさを増しました。いずれも返礼品を前面に押し出した訴求に力を入れています。
総務省がふるさと納税の返礼品見直しを要請
ふるさと納税では、自分の好きな自治体に寄付をすると、寄付額から2000円を差し引いた分の税負担(住民税・所得税)が減ります。
都市部に住む人が地方の自治体に寄付する傾向が強いため、都市部ではふるさと納税により減収となる自治体が増えています。総務省の調査によれば、2016年度課税分(15年寄付分)で東京都が261億円、神奈川県が103億円、大阪府が85億円の減収でした。
もちろん、その分が出身地など地域の自治体を応援するという本来の趣旨につながっていればいいのですが、実際には、多くの自治体から寄付額に応じた返礼品も受け取れることから、これを目当てにした寄付が少なくありません。
寄付額の5割以上の価格の返礼品を出す自治体も珍しくありません。千葉県の勝浦市は、1万円寄付した場合、市内で使える7000円分の商品券がもらえるとあって、16年度には県内で最多の29億円あまりを集めました。しかし、インターネットで転売されるなど、換金性が高いことから17年2月末で廃止されました。
商品券などのように換金性が高い商品を返礼品にすると、寄付したお金が戻ってくるのと同じです。つまり、税収だけが減ります。これらを受けて、総務省は17年4月、金券や家電など換金しやすい返礼品や高額すぎる商品の提供を控えるよう自治体に通知しました。
総務省の通知には強制力はありませんが、これを受けて、多くの自治体で返礼品の見直しをする動きが相次いでいます。金券などの取り扱いを廃止したり、返礼品の価格を3割以下に抑えたりするところもあります。
一方で、群馬県草津町のように、総務省の通知を拒否する自治体もあります。同町では、ふるさと納税の返礼品として、町内の旅館やホテル、飲食店で使える金券を贈っています。返礼割合は3割以下に抑えるものの、金券の取り扱いは継続するとしています。
同町の黒岩信忠町長は「農産物、海産物ならよくて金券がダメという根拠が明確でない。地方創生に役立ち、モラル上も問題はない」と語っています。
確かに、このあたりの判断は難しいところです。自治体によっては、同町のように、ふるさと納税が地元の産業振興に貢献しているところも少なくありません。農産物、海産物のほか、織物、木工品、陶磁器・漆器といった工芸品など、地元の産品が返礼品向けに調達されるからです。地域の魅力をアピールすることもできます。
一方で、返礼品ありきでは、「あっちの町のほうがコスパがいい」などと言われ、収入が大きく減る恐れもあります。
ふるさと納税の本来の理念が実現することに期待
ふるさと納税は本来、自分の出身地などを応援するための制度です。納税者が寄附先を選択するという点では、その使われ方が重要ですが、現状は、使われ方を意識する人は少ないようです。自治体のほうでも、集めた寄付金の使途の報告書などを作成・開示しているところは限られています。
一方で、自治体によっては、返礼品なしで、複数の事業の中から使い道を指定して寄付できるところもあります。このほか、九州北部豪雨の被災地となった自治体では、ふるさと納税制度を利用し、返礼品のない寄付も集まっています。
税金の使い道を納税者自身が判断することは大きな意義があります。ふるさとはもちろん、現在自分が住んでいる町も含め、愛着を感じる地域に貢献したいという思いに応えるのがふるさと納税制度です。
現在は過渡期ではありますが、その原点となる理念が実現できるのか、ふるさと納税制度の将来に期待がかかります。
下原 一晃