「アベノミクス景気」でも倒産は起きる
景気はいいのか、悪いのか? 感じ方は人それぞれかもしれませんが、マクロ景気だけに着目するのであれば好景気ということになります。
実際、日本経済は自民党が旧民主党から政権を取り戻した2012年12月から現時点まで、既に戦後3番目の景気拡張期が続いています。
来月、8月には1965年(昭和40年)11月から1970年(昭和45年)7月まで57か月間続いた高度経済成長時代の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の景気拡張期を達成することになります。
ただし、そのような好景気のもとでも倒産の憂き目にあう企業もあります。
6月26日に民事再生法の適用を申請し、これが東京地裁に受理されたタカタ(7312)の例は記憶に新しいところです。各種報道によると、最終的な負債総額は1兆円を超える見通しで、これは製造業としては戦後最大規模とのことです。
では、「アベノミクス景気」のもとでも、今後さらにこのような大型倒産は続くのでしょうか。
一般的に、倒産は不況期に多く起きるとされていますが、好況期だからといって、油断はできないことはタカタの例からも明らかです。そのため、答えはイエスとなるのではないでしょうか。
ちなみに、倒産とは平たく言えば財産を食い尽くして企業がつぶれることですが、タカタの場合、直近の決算(2017年3月期末)での自己資本比率は7%と債務超過にはなっていませんでした。
それにもかかわらず、法的整理(倒産)の道を選んだのは、今後の巨額のリコール費用を考慮すると、いずれ債務超過となることが確実視されたためです。
そう考えると、既に米国での原子力発電事業の巨額損失により債務超過になっている東芝(6502)は、かなり危機的な状態にあると考えるのが自然なのかもしれません。
MRJの三菱航空機やペッパーのソフトバンクロボティクスも債務超過に
とはいえ、債務超過が全て倒産に結びつくとは限らないことにも注意したいと思います。
最近の例では、MRJを開発製造する三菱重工(7011)の子会社の三菱航空機や、ソフトバンクグループ(9984)の傘下でヒト型ロボット、ペッパーを開発・販売するソフトバンクロボティクスが、2017年3月期末時点で債務超過になったことが報じられています。
しかし、いずれも事業は継続される見通しであり、また債務超過となったことが親会社の経営に対して甚大な影響を及ぼす可能性は現時点では限定的です。
なお、三菱航空機の場合は、当初予定に比べて開発が大幅に遅延し売上が計上できない期間が想定以上に長引いたことが、2017年3月期末で約510億円の債務超過に陥った要因です。
一方、ソフトバンクロボティクスは、既に発売済のペッパーの採算性が低いことや、開発費負担の継続により約310億円の債務超過となっています。
今後、両社はどうなる?
債務超過となった上述の2社は、当面は何事もなかったように事業が継続される見通しですが、来年度以降もさらに債務超過が続いた場合には、どのようなことが考えられるのでしょうか。
まず、考えられるのは、現在と同様に親会社の庇護のもと、これまで通り経営が継続されることです。
上場企業であれば、2期連続で債務超過となると上場廃止となりますが、両社とも非上場であるため、上場廃止によるステイタスの低下を気にする必要はありません。また、親会社の信用力が続く限り、資金繰りに窮することはないと考えられます。
しかしながら、中長期の将来展望が描ききれなくなった場合には、親会社に吸収され一事業部になるか、あるいは清算のうえ事業が解体されるか、さらにはより資金力や事業展開力のある他社への売却などが想定されます。
まとめ
東芝の原子力発電事業とは対照的に、飛行機もロボットも、開発には巨額の資金と時間が必要とされますが、将来に夢が持てる産業です。
このため、子会社を支援できるだけの体力が親会社に残っているのであれば、債務超過は“生みの苦しみ”の表れであると、おおらかに捉えていいのではないでしょうか。
一時的な債務超過状態を“経営の失敗”として糾弾し、その事業を清算に追い込むだけであれば、新しい産業は生まれないことになってしまうからです。
いずれにせよ、両社とも債務超過に転落したからといって、直ちに倒産に追い込まれることはないことを念頭に、今後の事業展開を注目していきたいと思います。
LIMO編集部