小・中学生が目指す将来の目標は「安定」
非公式な調査ですが、都内の小5~中3の男女50人ほどを対象に「将来の目標」を尋ねた結果がもたらされました。そこでは成績のよしあし、家庭の経済力に関係なく、ほぼ全員が「安定」と答えています。
「安定って具体的にはどんな人生?」
「出世しなくても、面白くなくてもいいから、困らずに生きていけること」
自分の将来像に欠かせないキーワードに「安定」を掲げるのは男子ほど多く、この調査ではなんと100%でした。
女子には若干ですが、具体的な職業を挙げた人もいます。語学力を生かしたいから通訳、人材不足なので必ず就職できるから保母、また時代を反映してアニメ関係、声優という答えがあります。しかし、あくまでも小数。圧倒的に多いのは、やはり「安定」です。
「安定には、退屈がつきまとうよ。毎日、毎日、同じことをしながら一生涯、生きていける? 退屈のあまり、遊びに夢中になって、人生を棒に振った人は少なくない。退屈は、こわいよ」
「それでもいいよ。生きていけなくなって困るよりはマシだから、我慢する」
小・中学生の親世代が目指した将来目標は「お金持ち」だった
近年、公務員を志望する子どもたちが多い理由も、安定があるからでしょう。背景には親の希望があることは想像できます。では、親が小・中学生だった時代にはどんな将来を望んでいたのでしょうか。
25年ほど前、バブル崩壊前後とはいえ、まだまだ好景気。永遠に経済成長が続くと誰もが信じて疑っていない時代でした。卒業を間近にした中3女子から、サイン帳を見せられたことがあります。
30~40名ほどが書きこんだサイン帳には思い思いの短文や絵があり、末尾が「将来の目標」欄です。そこには1人を除いて、どのページも「お金持ち」と記されていたのです。
「コックさんでも、学校の先生でも、アナウンサーでも、芸能人でも何でもいいから、なりたい職業はないの?」
「ないこともないけど、まずはお金持ちになれるかどうか。お金持ちになれる職業が見つかったら、それを目指してがんばる」
お金持ちを目指していた25年前の中学3年生が親になり、わが子に「安定が一番」だと教えていることになります。
叶わなかった親の将来目標が子どもの将来目標を築く?
さらに25年前、現在からさかのぼると50年ほど前です。わが子に「お金が一番」と教えた親たちの中学時代には、どんな将来目標を掲げていたのでしょうか。
現在の70歳前後の人、数名に尋ねた結果です。
女子は、まず結婚。よき主婦になることを考えていました。少数ですが教師や美容師、看護師をなどもおり、いわゆる職業婦人をめざす人が増え始めた時期だったようです。
男子は、野球選手、政治家、パイロットなど誰もがうらやましがる憧れの職業を挙げています。もっとも自由に将来目標を掲げていたのは次男、三男です。長男は親の跡を継ぐことを最優先にする人が多かったようです。
さらに、その25年前、現在からさかのぼると75年ほどの前の男子たちは一様に「兵隊さん」と答えていたと聞いています。
戦争が終わり「兵隊さん」になる将来目標は転向をよぎなくされました。その子ども世代は、憧れの職業を将来目標に掲げ、能力やチャンスの有無で挫折し、大半はやはり将来目標を転向せざるを得なくなりました。後半は、シラケ世代と呼ばれる時代とも重なります。
具体的な職業を掲げると挫折のリスクが大きいと考えたシラケ世代の親たちは、「お金が一番」だとわが子に教えました。しかし、長期不況、就職氷河期、リストラを経験し、やはり将来目標は転向をよぎなくされます。
お金持ちにはそう簡単になれないと知った時代の子どもたちが親になり、「安定が一番」だと教えるようになったという図式が成り立ちます。やや強引な図式ですが。