金(ゴールド)は“インフレに強い”ことが代名詞ですので、低インフレには弱いのではないかと思われがちです。ところが、世界的にインフレ率が低下しているにもかかわらず、金価格は堅調に推移しています。低インフレなのになぜ金が買われているのか、その理由を探ってみました。
インフレよりも通貨の下落が問題
ロンドン貴金属市場協会(LMBA)が公表している6月23日現在の金価格は1,255.7ドル(1オンス当たり、以下同)、年初来の騰落率は+9.1%となっています。米国の代表的な株価指数であるS&P500の年初来騰落率は+8.0%ですので、金は好調な株式市場を上回るパフォーマンスを上げているわけです。
ところで、金投資のメリットとしてインフレに強いことがしばしば指摘されます。最近は世界的にインフレ率の低下が問題視されていますので、金には逆風のはずですが金価格はなせ好調なのでしょうか?
この謎を解くカギはインフレと通貨の関係が握っているようです。
たとえば、1920年代のドイツ(ワイマール共和国)が有名ですが、ハイパーインフレーションはほとんどの場合、通貨価値の暴落を伴います。したがって、インフレと通貨価値の下落はコインの裏表のような関係となりますが、金は歴史的に通貨として流通してきた関係もあり、物価そのものというよりも通貨の下落に対するヘッジ(保険)として役立つ傾向にあります。
6月23日現在のユーロドル相場は1ユーロ=1.12ドル前後を推移しており、ドルはユーロに対し年初来で7.5%程度下落しています。ドルが下落するとドル建ての金価格が上昇する傾向にありますので、ドルの下落に対してヘッジの役割を果たしています。
金がヘッジ手段として機能するのは通貨価値の下落に対してであり、必ずしも物価そのものに対してではありません。たとえば、キャベツの価格が上昇したところで金は何の役にも立たないかもしれませんが、ドルが暴落した時に金を保有していれば米国民は大きな恩恵を受けると考えられています。
したがって、インフレ率が低下しているにもかかわらず金が上昇しているのは、ドルの下落が大きく影響していると考えられます。
米利上げには反応薄、長期金利の低下で
金は金利を生まないことから、金利の上昇も“天敵”とみなされています。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月と6月に利上げを実施していますので、こちらも逆風となりそうですが、これまでのところは大きな影響は伺えません。背景には長期金利の低下があると考えられています。
長期金利の低下にはインフレ率の低下が関係しています。通常であれば、FRBが利上げを実施すると、短期金利の上昇に伴い長期金利も上昇する傾向にあります。ところが、今年前半に限ると、インフレ率が低下している影響で将来的なインフレリスクへの懸念が後退し、利上げにもかかわず長期金利はむしろ低下しています。
インフレ率の低下や長期金利の低下は将来の景気見通しに対する不透明感を示唆しており、先行きに対する不安感が金投資の魅力を高めているとも考えられそうです。
ロシア疑惑で高まる米政権への不信感
2017年の目玉であった仏大統領選挙は無事通過しましたが、米国ではトランプ政権に対するロシア疑惑が浮上し、新たな政治リスクとして警戒されています。
ロシア疑惑による政治的混乱で、トランプ大統領の公約である大型のインフラ投資や税制改革の進展が遅れており、トランポノミクスへの期待感もはく落している様子です。
このように、政権への不信感も資産の逃避先としての金需要を高めている模様です。
弱いインフレ指標や政治への懸念は年後半も続く
今年前半を振り返ると、仏大統領選挙を波乱なく終えたことによる政治リスクの後退、世界的なインフレ率の低下、FRBによる利上げといった動きが金価格の逆風となったことは否めません。
しかし、こうした逆風にもめげず金価格は堅調を維持しています。
ポイントはインフレ率の低下が長期金利の低下とドル安を招いたことにあります。通常、インフレ率が上昇すると通貨価値も下落する傾向にありますが、2017年上半期の米国ではインフレ率が低下するなかで通貨価値も下落するという、経験則に照らすとちょっとめずらしい状況となったわけです。
米国では弱いインフレ指標に対する懸念の声が広がっており、ロシア疑惑も払しょくされたわけではありませんので、年後半も金が上値を伸ばす余地はありそうです。
LIMO編集部