以前、『女子はズルいと小中高男子に蔓延する「女子キライ」症』で子供たちの間に見られる男子 vs. 女子の対立について触れました。この男子 vs. 女子のもめ事、社会に出てからも続くようです。
オフィスから機器の雑音が消え、人の声が消えていく
ある地方自治体の昼休み前。机を並べて座る30代男性の職員と20代女性の職員が、言い争いを始めました。この2人は以前から何かにつけて口ゲンカをすることで有名でした。
とはいえ、そこは大人同士。大声を上げることはなく、周囲に聞こえないよう配慮しながら、小さな声で言い争っています。それでも、同僚たちの耳には聞えてきます。
近年のオフィスからは、音が消えました。一昔前なら、電話で話す職員の声がここかしこから聞こえていました。合間をぬってファクスの音が飛び交いますが、いまはメール。声を出さなくてもコミュケーションでき、消音してしまえば着信音すら聞こえません。
唯一聞こえる音は、コピー機やシュレッダーの音。こうした機器も精度が上がり、故障して誰かに助けを求める声も滅多に聞くことはなくなりました。
シーンと静まりかえったオフィスでは雑音が消え、誰かに話しかけることをためらう傾向が生まれ、人間の声が消えました。「おはよう」すら言わないのが当たり前になった職場まであります。
勤務中に整髪する男子、トイレの長い女子
静寂のなか、女性職員の声が少しだけ大きくなりました。
「職務中に散髪行くのをやめたらどうなの。女性職員は誰ひとり、仕事を抜け出して美容院に行く人なんかいないわよ」
職場にもよりますが、民間企業でも慣例として、職務時間内に理髪店に行くことが容認されているケースが今もあります。こうした職場では就業時間中に整髪するのが普通になっているので、1人だけ違う行動をすると唯我独尊的な変人扱いをされかねません。いわば自分も共犯だという合図として、堂々と職場を抜け出して理髪店に行くのです。
それでも内心では後ろめたい思いがあったのか、男性職員は一瞬戸惑った様子を見せたものの、すぐさま切り返しました。
「女性だってトイレでさぼってんじゃねえか。一度、トイレ行くと、しばらく帰ってこないんだから、お互いさまだろっ」
女性たちはトイレで何をしているのでしょうか。まずは化粧直し、そしてコミュケーション。「元気?」と声をかけ、「そのペンダント、ステキね」と持ち物をほめ、どこの飲食店が美味しかった、次に行く旅行先、バーゲン情報など話のタネはつきません。
盛りあがった会話を自分から切り上げてしまうのはなかなかできることではありません。「長いトイレ」になりがちな背景には、こうした事情が潜んでいるようです。
「言いがかり」は、静寂を破りたい気持ちの表れ!?
2人の攻防戦を称して、「仲がいいからケンカする」と言う人もいますが、もっとクールに分析している同僚もいます。
同僚によれば、すべての元凶は、雑音を消し去ったオフィスの静寂。攻防戦のきっかけは、たいてい男性職員。「机の上が汚い」「消しゴムのかすを飛ばすな」など、たわいのないことで言いがかりをつけているのだそうです。
もっとも同僚は、「言いがかり」は静まり返ったオフィスに張り詰めた緊張感を破りたいからだと説明します。消え去った人間の声がよみがえるひとときとして、オフィス全体が「言いがかり」を待っているのだとも明かします。
だから、たいていの職員は「言いがかり」に対して、「はいはい」と笑って聞き流しているそうです。ところが、この女性職員が相手のときは、いつまでも続きます。