投信1編集部による本記事の注目点
- 半導体製造装置大手の東京エレクトロン(8035)の売上高が、ついに1兆円を射程圏内に収めようとしています。
- 半導体市場拡大のベースとなっているのが、エンタープライズ/クラウド分野における半導体需要、さらにはIoTに代表されるエッジコンピューティング分野での需要拡大です。
- 設備投資が活発化している3D-NANDは、デバイスの構造上「深い穴を掘って、埋める」という工程が多く、設備投資のウエイトもエッチング・成膜・洗浄中心に移行しています。その中でも2D-NANDに比べて装置ウエイトが劇的に高まるのがエッチング装置です。
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半導体製造装置大手の東京エレクトロン(株)の売上高が、ついに1兆円を射程圏内に収めようとしている。半導体製造装置市場の拡大に伴い、2019年度(20年3月期)には、最大で1.2兆円の売上高達成を目指す。ただ、今後最も成長が見込めるエッチング装置に関してはシェア目標を引き下げるなど、課題も残す。同社の現状と今後の事業戦略を追った。
売上高は1.5倍に
「半導体は新しい成長フェーズに入った」――17年5月末に開催された同社の中期経営計画説明会で、代表取締役CEOの河合利樹氏が語った内容だ。同社は19年度までに最大で売上高1.2兆円を目指す新たな中期経営計画を公表。主戦場とする半導体前工程装置(WFE=Wafer Fab Equipment)市場が420億ドルとなった場合は売上高が1.05兆円、450億ドルでは1.2兆円と幅を持たせた計画となったが、16年度実績の売上高が7997億円だったことを考慮すれば、売上高は約1.5倍となる計画であり、同社の強気な市場見通しがうかがえる。
同社では15年にWFE市場予想300億ドルで売上高7200億円、370億ドルで9000億円を目指す中期経営計画を公表していたが、3D-NANDを筆頭に半導体設備投資が活発化しているため、これを見直した。
従来、WFE市場は300億~350億ドルをここ何年も推移しており、半導体デバイス市場が年々拡大を遂げるなか、WFE市場は鈍化傾向にあったといってよい。半導体デバイス市場の金額規模に対して、装置市場の割合を示すCapital Intensity(装置市場÷デバイス市場)も年々減少傾向にあり、装置市場の将来性を危惧する声が業界内にも多く聞かれた。
WFE市場は400億ドルの壁を破ることができない。業界内でも長年こうした見方が支配的であった。しかし、今その壁が破られようとしている。同社によれば、17年(暦年)のWFE市場は前年比8.6%増の約400億ドルを想定。今後も安定的な成長を見せ、19年度にはベストシナリオで450億ドルの市場形成を予測している。
市場拡大のベースとなっているのが、エンタープライズ/クラウド分野における半導体需要、さらにはIoTに代表されるエッジコンピューティング分野での需要拡大だ。エンタープライズ/クラウド分野では3D-NANDが、エッジ分野ではセンサーやRFデバイスの需要拡大が見込まれ、足元でもこうした設備投資が積極的に展開されている。加えて、自動運転などに沸く自動車分野もこうした市場拡大を支える存在となる。
製造装置市場は景気動向に左右される傾向が強く、ボラティリティーが高いとされ長期的に市場を見通すのが難しい産業であるが、半導体産業の裾野拡大に伴って国内最大手、世界でも第4位に位置する同社がこうした中期計画を外部に対して示したことは大きな意味を持つ。
各生産拠点で開発フロア拡張
半導体装置市場の拡大に伴い、同社も積極的な動きを見せる。6月1日付で開発生産グループの組織体制を見直した。従来の開発生産本部から、製品別に第1~第4までに細分化。さらに7月1日付で、東京エレクトロン山梨(株)と東京エレクトロン東北(株)を合併し、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株)(TTS)を設立。従来、パターニングソリューションプロジェクトと呼んでいた全社横断的プロジェクトな活動範囲を広げ、「プロセスインテグレーションセンター(PIC)」を設立。その機能をTTSに移管し、製品化を加速させる。
設備投資やR&Dも加速する。17年度設備投資金額は、前年度比で約2倍の420億円を計画。エッチング装置を開発・生産する東京エレクトロン宮城(株)で新物流棟を建設するほか、このほど新開発棟の建設も決めた。17年10月から着工し、18年8月末の竣工を予定する。
さらに、塗布現像装置を手がける東京エレクトロン九州(株)でもクリーンルーム(CR)を拡張。新たに1350m²の開発用CRフロアを追加し、18年1月に完成予定。これによりCRフロア面積は従来比1.3倍に拡張される見通し。また、東京エレクトロン山梨でも開発フロアの拡張投資を行う。研究開発費も17年度は前年度比10%増の940億円を計画するなど、20年度に向けて毎年1000億円規模を投じていく考えだ。
エッチング投資比率は50%に
装置別では圧倒的なシェアを誇る塗布現像装置(コーター&デベロッパー)をベースに、エッチング・成膜・洗浄装置の事業拡大を図っていく。現在、設備投資が活発化している3D-NANDはデバイスの構造上、「深い穴を掘って、埋める」という工程が多く、設備投資のウエイトも従来のリソグラフィー装置中心から、エッチング・成膜・洗浄中心に移行している。なかでも、2D-NANDに比べて装置ウエイトが劇的に高まるのが、エッチング装置。同社試算によれば、2Dが主流であった12~14年のNAND設備投資におけるエッチング装置比率は15%であったが、3Dが全盛となる19年には50%にまで高まるという。
これには3D-NANDの多層化が大きく影響している。現在48/64層が3Dの主力プロセスであるが、今後は9X/12X層とより一層多層化が進む。これによって、エッチング装置への投資比重が高まり、製造装置の伸びに比べてエッチング装置の伸びが高くなる。WFE市場は19年に15年比25%増加すると見込んでいるが、エッチング装置は同70%増加し、19年には市場全体の25%強を占める110億ドルにまで市場が拡大すると、同社では予測している。
市場成長の伸びしろが大きいエッチング装置でシェアを取れなければ、今後の売り上げ成長を確かなものにすることができない。同社に限らず、エッチング装置を手がける各社は最注力分野として挙げているところがほとんどだ。
同社のエッチング装置の市場シェアは16年実績で23%。今回の中計発表では、これを30%以上に引き上げる目標となっているが、前回発表の中計では19年に35%前後となっており、ややトーンダウンした印象が否めない。これに対して、同社はエッチング装置のシェア上昇におけるタイミングが後ろにずれていることを示唆している。
同社のエッチング装置はもともと、ロジックの配線工程でシェアが高く、次いでDRAM、NANDというように、NANDにおけるシェアはそれほど高くない。とりわけ、エッチング装置への負荷が大きい3Dに移行してからは、競合の米Lam Researchが躍進し、そのシェア差は広がったと見られ、同社の弱点と見なされていた。
同社もその点は認識しており、競合メーカーとの差を縮めるべく、顧客への積極的な提案を進めている。3Dにおけるエッチングアプリケーションは主に、(1)多段コンタクト、(2)コンタクトパッド(ステアケース)、(3)チャネル、(4)ワードライン分離(スリット)の4つがあり、このうち(1)は100%のシェアを獲得。(4)に関しても、9X層世代で新たな顧客のPOR(Process of Record=顧客側ラインでの承認)を獲得しており、成果を出し始めている。今後の課題については(2)と(3)であるが、同分野はLamの独壇場と見られ、牙城を崩すのはそう容易ではなさそうだ。
FSは計画前倒しで達成
また、中期計画の達成に向けては、新品装置の販売だけでなく、改造やリファブ、パーツ供給などで構成されるフィールドソリューション(FS)事業の拡大も欠かせない。同事業がIoT市場拡大における半導体需要の取り込みにおいて大きな役割を担う。IoT市場での半導体需要は主にセンサーやRFなど、製造世代も最先端プロセスを必要としないケースが大きく、既存装置の改造や中古装置でラインを整備しようとする動きが多い。
同社でもこうした事業機会を的確に捉えるべく、FS事業を強化。16年度のFS事業売上高は前年度比12%増の2080億円を記録。もともと、19年度を最終年度とする中期計画で2000億円の達成を目標に掲げており、これを前倒しで達成した。16年度は製品のアップグレードとパーツ供給の需要が好調で、パーツ供給がFS売り上げ全体の約4割を占めたという。
今後は新しいアプリケーションに対応した改造・再製作装置の提供や、約6.2万台の納入台数を生かしたリモート接続による高付加価値サービス提供を行うことで、19年度にWFE市場420億ドル想定で2700億円、450億ドル想定で3200億円の売り上げ達成を目指す。
同社に限らず、半導体製造装置業界は半導体メーカーの投資ラッシュで、足元では繁忙を極めている。その成長局面でいかにして、着実に事業機会を捉えていくのか。今後の同社の動きに是非とも注目していきたい。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳
投信1編集部からのコメント
東京エレクトロンの株価を見れば株式市場の期待が高いことは誰の目にも明らかでしょう。そうした投資家の期待に応えるべく、同社は市場見通しと戦略を発表していますが、本記事はその背景を丁寧に解説しています。同社社長の「半導体は新しい成長フェーズに入った」という言葉には心強いものがあります。しかしその一方で、何事においても"This time is different"(今回は違う)と言われる時は既にピークであることが見受けられるものです。需要の背景には引き続き要注意と思われます。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
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