五輪会場は、あまり活用されていないならば、解体する事も選択肢として要検討でしょう(経済評論家 塚崎公義)。

東京五輪の会場が有効活用されていない

1/3

出所:東京都オリンピック・パラリンピック調整部「新国立競技場の整備に関する財政負担」

出所:東京都オリンピック・パラリンピック調整部「新国立競技場の整備に関する財政負担」

東京五輪(オリンピック、パラリンピック)が終わって1年経ちましたが、五輪の会場が有効活用されていない模様です。新型コロナのせいだ、という面もあるでしょうが、プロ野球の球場等々と比較して、稼働率の低さが目立っているようです。

筆者はスポーツ施設等に詳しくありませんが、どうも使い勝手が良くないと言われている模様です。

そうであれば、今後についても利用が急増することは期待しにくいかもしれません。

【東京五輪】新国立競技場を解体するという選択肢も

2/3

kholywood /shutterstock.com

kholywood /shutterstock.com

一方で、維持管理の費用は確実にかかるので、収支は赤字となっているようです。今後についても、黒字化の見通しが示されているという話は筆者の耳に届いていません。

それならば、新国立競技場を解体するという選択肢も要検討でしょう。都心の一等地にあるので、解体して別の用途として有効活用すれば、赤字が消えるのみならず黒字が稼げるかも知れないのですから。

本稿は「五輪を立派なスタジアムで開催した事」自体を批判するつもりはありません。

東京五輪は儲けるために実施したのではなく、巨額の費用がかかったとしても、それに見合った成果があったかも知れないからです。少なくとも、新型コロナが流行しなければ、多くの観客が利用したでしょうから、コストに見合ったメリットがあったかも知れないのです。

五輪を開催したことのメリットをどう測定するかは難しい問題なので本稿では論じないことにしましょう。

そうだとすれば、言えることは、仮に次の五輪が開催される時には、五輪終了後も有効活用されるような施設を建設して欲しい、という事くらいですね。

【東京五輪】サンクコストは考えてはならない

3/3

ANDREI ASKIRKA /shutterstock.com

ANDREI ASKIRKA /shutterstock.com

上記の考察で重要なことは、「施設を建設するために巨額の費用を支払ったのだから、取り壊すのは勿体無い」という発想を排除することです。勿体無いという気持ちはわかりますが、それは合理的な判断を妨げてしまうからです。

施設を取り壊しても残しても、建設のための巨額の費用は戻って来ません。こうした費用のことを「サンクコスト」と呼びます。サンキューのサンクではなく、沈んでしまった、という意味の英単語です。

どうせ戻ってこないのですから、サンクコストは今後の選択肢を考える際に考慮してはならないのです。

払ってしまったコストのことは忘れて、どうすれば今後の収支が最も改善するのかを未来思考で考えるべきなのです。

筆者がサンクコストの説明として好んで用いるのは、「買った本の最初がつまらなかったら、どうするか」です。買った代金が勿体無いから最後まで読む、という人も多いでしょうが、そうすると買った代金と読んだ時間の両方を損する事になるのです。

サンクコストの考え方からすれば、買った本の代金は戻ってこないのだから、今から自分が幸せになるために何をすべきか考えるべきです。つまらない本を我慢して読むか、散歩に行くか。筆者なら後者を選びます。

問題は、「つまらない本を買った自分が馬鹿だった」と思いたくないために、本の最後が面白いという僅かな可能性に期待して読み続ける人がいることです。

新国立競技場のような場合には、担当者が取り壊しを提案することで「こんな競技場を建てた責任者は馬鹿だった」と言う意味にとられると、上司の機嫌を損ねませんから、事態は一層複雑かも知れません。

本稿が「新国立競技場は、五輪会場として既にコスト分のメリットを日本に与えてくれたかも知れないので、建設自体が愚かだったとは思わない」と記したのは、そういうことにして、担当者に取り壊しを提案する時の心理的抵抗を取り除こう、という意図もあるわけです。

【東京五輪】機会費用は考える必要がある

サンクコストは「実際の出費なのに考えてはならない」わけですが、反対に「実際の収入でないけれども考えなければならない」ものもあります。「機会費用」です。

新国立競技場の場合、場所が一等地ですから、取り壊して別の施設を建てれば大いに利益が稼げるかもしれないのに、そのチャンスを放棄しているのは勿体無い、ということです。

上記の本の例でいえば、つまらない本を読むより散歩ですが、散歩せずにアルバイトをすれば収入が増えたかも知れません。その収入が本の購入代金を上回る事もあるでしょう。これが本を読むことの機会費用です。

機会費用については、「黒字の事業をやめて更に儲かる事業をやろう」という場合にも使える考え方ですが、事業が黒字の場合には事業をやめる事への心理的な抵抗が大きいでしょうし、そもそも事業が黒字の場合には「更に儲かる事業があるかも知れない」という事が思いつかない場合もあるでしょう。

新国立競技場の場合には、幸か不幸か事業が赤字でしょうから、サンクコストを考えるのをやめて機会費用のことを考えて取り壊そう、という事に思いが至る人も多いのではないでしょうか。

筆者はスポーツ施設の収益性等々に詳しくありませんが、是非とも専門家に検討してもらいたいものです。

本稿は、以上です。なお、本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから>>

参考資料

塚崎 公義