米格付け会社ムーディーズは5月24日、中国の格付けを“Aa3”から“A1”へ1段階引き下げました。ただ、当初は下落した株式市場もすぐに持ち直し、人民元もほぼ横ばいを維持するなど、マーケットの反応はいたって冷静でした。格下げに動じなかったことが好意的に受け止められた一方で、警鐘として受け止めるべきとの声もあり、見方は分かれています。

そこで今回は、格下げにまつわる中国経済の現況を整理し、中長期的な視点から今後を展望したいと思います。

中国の債務比率、日本のバブル期超えに警戒感

格下げの主な理由は成長率の低下と債務比率の上昇です。ただ、成長鈍化と過剰債務問題は広く認識されており、ムーディーズが中国の格付け見通しを“ネガティブ”としたのは1年以上前の昨年3月のことです。したがって、材料としての新鮮味がなかったことも冷静な対応につながったと言えるでしょう。

中国の成長鈍化を数字で確認すると、GDP成長率は2010年の10.6%から単調な低下が続いており、国際通貨基金(IMF)は2017年を6.6%、2018年を6.2%、そして2022年には5.7%へ低下すると予想しています。

一方、ムーディーズは中国の潜在成長率は今後5年で5%程度まで低下すると見ていますが、中国政府による景気対策により、実際の成長率の鈍化はより緩やかになるとしています。

また、中国は2015年までに人口ボーナス期から人口オーナス期に転換しており、成長の鈍化は人口動態の変化が影響しています。総人口に占める生産年齢人口(15-64歳)比率の上昇局面は人口ボーナス期、低下局面は人口オーナス期と呼ばれ、ボーナス期は人口要因が成長を加速、オーナス期は抑制するとされています。

国際決済銀行(BIS)によると、2016年6月末時点での中国の民間債務の対GDP比率は209.4%、うち企業部門が167.6%、家計部門は41.8%となっています。日本の民間債務の対GDP比率のピークは1989年の208%ですので、中国の債務比率は既に日本のバブル期を越えており、債務の拡大も限界に近づいているようです。

日本では1990年前半に人口動態がボーナス期からオーナス期へと転換しており、この時期とバブル崩壊が一致していることも中国の過剰債務に対する警戒感を強めている模様です。

3つの減速を懸念

1-3月期の中国GDP成長率は前年同期比+6.9%と好調ですが、成長鈍化の兆しがうかがえることから、成長鈍化は避けられない見通しです。特に警戒が必要と思われるのが、自動車販売、住宅価格、インフラ投資の行方です。

1. 自動車販売が減税終了で急減速

中国の4月の自動車販売台数は前年同月比-2.2%と、1年8カ月ぶりに前年水準を下回りました(ただし、旧正月の影響で振れの激しい1月と2月を除く)。1-4月期の累計も前年同期比+4.6%と、2016年の+19.6%から急ブレーキがかかっています。

販売支援のための減税が終了し、今年1月からは小型車の購入税がそれまでの5%から7.5%に引き上げられました。来年は通常の10%に戻る予定で、予定通りなら年末にかけては駆け込み需要が期待できますが、通年では小幅な伸びにとどまる見通しです。さらに、2018年の年初には反動減が予想されます。

2. 住宅価格は早ければ年内に前年割れも

4月の中国住宅価格は前年同月比+9.9%と高い伸びを維持していますが、昨年12月以降は緩やかに伸び率が低下しています。また、1-4月の住宅販売金額は前年同期比+16.1%と昨年同期の+36.2%から伸び率が大きく鈍化しています。

中国政府は住宅価格高騰による国民の不満に応え、住宅価格の抑制に取り組んでいます。秋の党大会を見据えて、住宅価格の伸びは趨勢的な鈍化が続き、年末には前年割れとなる可能性もありそうです。

3. インフラ投資も鈍化へ、影の銀行への規制も影響か

中国の成長を支えているのはインフラ投資で、1-4月期は前年同期比で18.2%増加していますが、インフラ投資の高い伸びの背景には地方政府の資金繰り改善があります。

中国では従来、地方政府による地方債の発行は原則禁止でした。ただ、高い成長を維持したい地方政府がシャドーバンキング(影の銀行、投資ファンド)を利用して資金調達を拡大し、非効率な投資の温床として問題視されたことから、2015年以降、地方債の発行が認められています。

シャドーバンキングは短期で高金利でしたので、長期で低金利の地方債へと借り換えることで地方政府の資金繰りが改善し、インフラ投資の拡大に寄与してきました。しかし、地方債への借り換えが年内で一巡することから、来年以降のインフラ投資の拡大に歯止めがかかるのではないかと懸念されています。

また、シャドーバンキングへの規制が強化されていることもネガティブな影響として警戒されています。

試練が訪れるのは来年?

企業が抱える過剰債務は金融機関の過剰融資の裏返しです。中国政府は短期金利を引き上げて過熱を冷ます構えを見せていますので、ブレーキが効き過ぎて成長が鈍化する可能性もありそうです。

こうした中で、減税の終了、住宅価格の抑制、規制の強化により自動車販売、住宅投資、インフラ投資が来年を目途にそろって失速する恐れがあり、中国経済は2018年に試練を迎えることになるのかもしれません。

LIMO編集部