大学院の博士課程修了者の進路について不安視する声は多いです。
その原因として、アカデミックポストに就くためのハードルの高さや、27歳以上の方が一般企業に新卒として入ることの難しさが挙げられます。
本記事では、近年における博士課程の進学率を確認した上で、博士課程修了者が不安定な経済状況に置かれやすい理由を解説します。
大学院の博士課程の進学者はどのくらいいるのか
文部科学省が公表した「第1章 我が国の研究力の現状と課題」によると、2021年における博士課程の進学者は約1万4629万人です。
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出典:文部科学省「第1章 我が国の研究力の現状と課題」
推移を見ると博士課程の進学者数は2003年以降減少傾向にあり、2016年以降1万5000人を下まわる状況が続いています。
2021年における博士課程の進学者は、社会人入学を除くと8529人。少し前の資料になりますが、文部科学省による資料では、平成22年度の24歳人口における博士課程入学者の割合は0.7%と推計されています。
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出典:文部科学省「大学院の現状を示す 基本的なデータ」
近年における博士課程の進学者の傾向として、社会人経験を経た後や定年退職後に進学される方が増えています。大学院に進学した筆者の肌感覚としても、ミドル層以上の院生は少なくありません。
博士課程修了者の「就職率」は60%台。分野別の進路状況は
文部科学省が公表した「令和3年度学校基本調査(確定値)の公表について」によると、2010年から2021年までの博士課程修了者の就職率は以下のとおりです。
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出典:文部科学省「令和3年度学校基本調査(確定値)の公表について」
博士課程修了者の就職率は60%台を長年にわたってキープしています。博士課程修了者の就職率は年々上昇傾向にあり、2021年の博士課程修了者の就職率は68.4%です。
ただし、この調査における「就職者」には正社員だけでなく、非正規雇用も含まれていることに留意する必要があります。
博士課程修了者の就職状況についてより詳しく知るために、文部科学省が公表した「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」もあわせて見てみましょう。
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出典:文部科学省「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」
上記の表を見ると、正規の職員等に就いた博士課程修了者は「工学、保健、家政」を除き、半数に達していません。
大学院進学において進路が最も懸念されがちな人文科学の修了者のうち22.1%が正規の職員等に。理学や教育など実務に直結しそうな分野でも正規の職員等に就いた方は半分以下です。
【ポスドク問題】博士課程修了者のお財布事情が厳しい理由4つ
現在の日本が抱えている問題の一つとして、ポスドク問題が挙げられます。
以下、博士課程修了者が経済的に厳しい状況に陥りやすい原因を説明します。
博士号取得に時間がかかる
博士課程に3年間在籍し、必要な単位を取得することで、博士論文を提出する資格を得られます。
しかし、ほとんどの方が博士課程入学から6年以上かけて博士論文を執筆しています。
博士論文を執筆しながら正社員としての勤務は、容易ではありません。そのため、博士課程修了者のなかには博士論文の執筆を優先し、フルタイムで働くことを控える方や残業の少ない職場を好まれる方も多いです。
大学の専任教員のポストが少ない
大学教員の求人は定期的に出るものではありません。また、自身の専門分野の求人が出たとしても、内定を得るには厳しい競争を勝ち抜く必要があります。
募集があまりない上、高倍率となると、就職するまでに時間がかかります。就職が決まるまでは大学の非常勤講師やアルバイトなどで生計を立てる方が多いのです。
希望する職種の正規職員での募集が少ない
人文系の大学院修了者に人気の職種は、正社員の募集が少ない傾向にあります。たとえば、美術館の職員や図書館司書、大学付属の史料館の職員などは任期付き職員の求人が目立ちます。
新卒採用のレールに乗れない
博士課程2年目の学生が、学部3年生と同じ新卒採用のレールに乗ることは難しいでしょう。
博士課程修了後に一般企業に就職するためには、学部生以上の行動力が就職活動で必要です。
博士課程修了者が持つ「基礎スキル」を活かしにくい環境に
博士課程修了者の多くが一般企業でも役立つ基礎スキルを大学院で培っていると見受けられます。
たとえば、大学院在学中に研究室の運営を通してマネジメントスキルを身に付ける方は多いです。
また、学会発表を通してプレゼン慣れしている方や、研究の一貫として事務作業に慣れている方もたくさんいます。
しかし、現状としては、博士課程修了者が安定的なキャリアを築くことは容易でないといえるでしょう。
その原因として、博士課程修了者が研究職以外の職を希望していないことや、多くの企業が博士課程修了者の入社を想定していないことが挙げられます。
博士課程修了者は少ないゆえに、博士課程修了者に対する世間における先入観や誤ったイメージもまた、キャリアの選択肢を狭めている原因といえるかもしれません。
※本記事では、博士後期課程単位取得後満期退学者と博士号取得者をあわせて「博士課程修了者」と表記しています。
参考資料
- 文部科学省「第1章 我が国の研究力の現状と課題」
- 文部科学省「令和3年度学校基本調査(確定値)の公表について」
- 文部科学省「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」
- 文部科学省「大学院の現状を示す 基本的なデータ」
西田 梨紗
