エネルギー移行に向けた金融の再構築

昨年発足したネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero、GFANZ)は金融セクターにとって劇的な転換点となりました。100社以上の金融機関がGFANZに参加しています。これらの機関は「2050年までに温室効果ガス排出量のネットゼロ」というコミットメントに加え、サービスを提供する顧客の投融資に伴う排出量をカバーする、科学的根拠に基づいた2030年の目標を掲げています。

おそらく金融は世界でも最も競争が熾烈なセクターの一つですが、本分野における協力の正当性に疑いの余地はありません。我々全員が金融機関として同じシステミック・リスクに直面しており、移行を必要とする共通の顧客とコミュニティの基盤を保有しています。我々はこれから事業の意思決定を完全に再構築し、新たなスキルを投入しなければなりません。

「投融資に伴う排出量」は我々が低減する必要がある新たな基準であり、顧客の移行計画は顧客への働きかけと意思決定にとって不可欠となると考えられます。

当然のことながら、化石燃料に対する融資という頭の痛い問題が世間の注目を浴びています。ステークホールダーが金融機関のネットゼロ・コミットメントの信頼性に関する証拠を求めているためです。これは白黒がはっきりとしたテーマではありません。一部の石油・ガス会社は自身のスキルや市場での強みを転用し、総合エネルギー会社として移行における不可欠なプレイヤーとなることを模索しています。

さらに、IEAによれば、2050年までのネットゼロ・エネルギーシステムにおいては、石油生産と(今日の25%の水準)天然ガス生産(同50%の水準)は継続されることも忘れてはならない点です。

エネルギー移行においてはメンテナンス投資が必要となります。IEAは「2021~2030年には2020年と同水準の年平均3,500億米ドルの上流の石油・ガス投資が必要になる」との見方を示したうえで、2030年以降は半減するとしています。とは言え、IEAとIPCCは世界が2050年までにネットゼロを達成すべきであるなら、化石燃料に対する新規投資を禁止するという明確な線引きを示しています。

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HSBCでは、今年3月に「世界の気温上昇を1.5度に抑制するために必要な水準まで化石燃料事業への融資を段階的に引き下げる」という明確なコミットメントを表明しました。このなかには、2030年までにEU/OECD諸国そして、2040年までには世界全体で一般炭向けの融資を段階的に縮小するという当社の方針を含んでいます。

さらに今年後半にはエネルギー移行に関する幅広い方針の発表も予定しています。これはエネルギーセクター向けの投融資に伴う排出量に関する当社の短期目標を達成することに加えて、すべての大手石油、ガス、および電力会社、公益企業顧客の今後1~2年およびそれ以後の継続的な移行計画に働きかけることも意味します。

科学的根拠に基づく目標イニシアティブ(SBTi)は先日、「金融機関向けのネットゼロ基準」報告書を発表しました。この中にはネットゼロ目標という状況における化石燃料融資への取り組み方に関する金融機関向けのガイダンスが含まれていました。SBTiは「ネットゼロ目標と行動計画を導入する化石燃料会社への働きかけ」を推奨しています。

これは「脱炭素が不可能で消極的な企業のみを対象として資金を引き揚げる」ことによって「化石燃料会社の地球温暖化ガス(GHG)排出に影響を与えることを金融機関の最優先事項」とするためです。

これが当社の導入しているアプローチであり、近い将来に移行計画を発表しない場合、または度重なる働きかけの後、当該移行計画が1.5度の道筋に対応していない場合には、当社は顧客に対する融資継続の成否を検討することになります。