日本の住宅市場は、他の国々と比べて行き過ぎた「新築至上主義」だと言われています。新築でなければ売れない、中古住宅はよほど良い点がなければ空き家となってしまう可能性が高い日本の住宅市場は、世界的に見ても特異な市場です。

それは、家が新しくなければ売れない、一度誰かが住んだ家は誰も買い手がつかないので取り壊さなければならない、といった住宅の「使い捨て」にもつながり、様々な批判を受けることになります。

そんな住宅市場の改革に乗り出そうと政府は「長期優良住宅制度」を始めました。これはいい家を、修繕しながら長く住み、家の資産価値を維持するということを目的とした制度です。

そんな長期優良住宅制度について、解説をしていきます。

長期優良住宅って何?

長期優良住宅とはどういったものなのでしょうか?

長期優良住宅は、家を建てる時から耐震性や省エネ性などを考慮した作りとして、長期的な修繕計画を作ることで、家の資産価値を高めることを目的としています。

現在の住宅市場では、新築時の購入価格と比較すると売却時には半値以下となってしまうような状態です。

長期優良住宅に認定された住宅は、修繕計画を正しく実行することで、家の状態が良い状態で中古住宅市場に供給されることになります。中古住宅として、家の資産価値を向上させることで、何世代にも渡って人が住める家を目指しています。

長期優良住宅と普通の住宅はどう違う?

では、長期優良住宅と普通の住宅は具体的にどう違うのでしょうか?

長期優良住宅は、自治体からの認定を受ける必要があります。そのために、新築時に申請を行います。この申請は、通常、住宅建築会社が認定を受ける機関へ委託し、自治体からの長期優良住宅の認定証の交付を受けるという代理申請の形態をとっていますので、長期優良住宅の物件を探したいと思っている人は、不動産屋に言えば、建売物件などを紹介してもらえます。

では、具体的にどのようなことを長期優良住宅として申請するのでしょうか?

具体的な長期優良住宅の認定を受ける項目

ここでは、戸建住宅に関する認定に必要な項目についてあげていきます。

劣化対策
長期優良住宅という名称からも分かるように、住宅を長持ちさせるための措置が取られているかを申請します。具体的には、床下が点検できるような構造になっているか、天井裏が入れるようになっているかを審査します。建てた後の保守性の良さを確認します。

耐震性
東日本大震災が起きて、耐震については、通常の住宅でも建築申請時には見られる項目ですが、長期優良住宅でも同じです。長く住むためには災害に強い家でなくてはなりません。

維持管理、更新の容易性
下水配管などは年数が経ては汚れが詰まる等の劣化が生じてきます。その場合に、バイパス配管などで配管の入れ替えが容易に行えるかなどを確認します。消耗する家の部分は随時更新し、家を長持ちさせるという観点からです。

省エネルギー性
住宅の断熱材など、省エネルギーによる項目もあります。これは通常の家にも当てはまります。

維持保全計画
ここが長期優良住宅と通常の住宅との大きな違いです。

新築時に、長期優良住宅は点検や整備内容の周期を保全計画として自治体に提出します。これにより、何年後にどういったことを行わなければならないという項目が、家主の責任で計画を実行されなければなりません。

居住面積
戸建住宅、マンションで一定以上の居住面積が必要となります。狭すぎる物件は、長期優良住宅の認定自体を受けることができません。これは、家を資産と考えた場合に、あまりの狭小住宅はその資産価値に影響するとの理由からです。

マンションも長期優良住宅の申請ができるの?

マンションでも、同じように申請を行うことにより、長期優良住宅の認定をうけることが可能となります。マンションは共有部分の整備はマンション管理組合が行っていますが、マンション内部の修繕は家主が行わなければなりません。マンションの部屋を長持ちさせるために、長期優良住宅の認定を受けるということもできます。

長期優良住宅 税制上のメリット

長期優良住宅の認定を受けることで、税金控除を受ける金額が大きくなるメリットがあります。

通常の住宅で住宅ローンを利用する場合、最大でローン利用額の4000万円の1%(最大40万円)が毎年の所得税控除として、住宅ローン控除を受けることができます。

長期優良住宅の認定を受けた住宅で住宅ローンを利用する場合、住宅ローン控除は5000万円の1%(最大50万円)まで受けることができます。

住宅ローン控除がこれだけ大きくても、年間の所得税がここまで支払っていないという方もいると思います。そういった方は次年度の住民税に、所得税で控除しきれなかった控除額が反映されます。この住宅ローン控除額は消費税率8%の時に住宅を購入すると適用されます。将来的に消費税率10%となった場合には控除額が変更となりますので注意が必要です。

長期優良住宅の各種補助金

長期優良住宅を申請するもう一つのメリットとしては、補助金がでるというものがあります。

主な補助金は以下のようなものがあります。

地域型住宅グリーン化事業補助金

地域の工務店が長期優良住宅を建設した場合に、最大で100万円の補助金を受けることができます。

また地元の木材を使用して家を建てた場合20万円、さらに三世代同居型住居とすれば30万円の合計で150万円の補助金を受けることが可能となります。

参考:【公式HP】地域型住宅グリーン化事業(評価)

長期優良住宅化リフォーム推進事業補助金

住宅をリフォームする場合に、長期優良住宅の申請を行う場合に適用できる補助金です。今までは通常の住宅であっても、リフォームの際に所定の条件を満たしていれば、長期優良住宅の認定を受けることができます。

補助金の上限は100万円、三世代同居型住居とする場合はさらに50万円の合計150万円の補助金を受けることが可能です。これらの補助金は募集期間があり、その間に補助金の申請を行います。応募状況によっては、早期に締め切られる可能性もありますので、補助金の窓口に都度確認が必要です。

参考:【公式HP】平成29年度 長期優良住宅化リフォーム推進事業

長期優良住宅 その他税金等の優遇

その他にも長期優良住宅の認定を受けることにより、様々な優遇策があります。

固定資産税の減額措置

購入直後の固定資産税の減額措置が戸建住宅、アパートにはありますが、その減額期間が通常の住宅よりも長い期間取られています。

戸建住宅であれば、通常3年であるところを5年、マンションであれば通常5年であるところを7年間、固定資産税が減額されます。

不動産取得税、登録免許税

この二つの税金は、戸建住宅やマンションを購入した際に係る税金ですが、これらの免税額が通常の住宅よりも大きくなっています。そのため、長期優良住宅を購入する場合、購入時に支払う税金が安くなり、購入しやすくなると言えます。

フラット35sを利用できる

35年間一定金利の住宅ローンとして有名なフラット35ですが、さらに金利優遇の取られたフラット35sを長期優良住宅に認定されれば利用することが可能です。フラット35sとは、35年のうちの10年または5年間、優遇金利が適用されるというものです。通常のフラット35よりもお得なプランとなりますが、長期優良住宅に認定されなければ利用することができません。

参考:【公式HP】フラット35

確定申告により、特別減税をうけることができる

通常の住宅と比較して、長期優良住宅の方が建物の建設金額が増えます。通常の住宅と比較したその増額分を確定申告で申請することで、特別減税を受けることができます。住宅ローン控除を受ける初年度は、確定申告を行う必要があることから、合わせての申告となります。

長期優良住宅のデメリット

ここまで、長期優良住宅のメリットを挙げてきましたが、デメリットも存在します。

それはどのようなものなのでしょうか?

長期優良住宅 申請時に費用がかかる

長期優良住宅の認定を受けるために、検査機関に申請を行いますが、もちろんこれには費用がかかります。建設会社によって様々ですが、10~20万円が相場のようです。言うまでもありませんが長期優良住宅の認定を受けなければ、支払わなくてもよい費用となり、現在は認定を受けなくても家を建てることができます。

認定に時間がかかる

長期優良住宅の認定を受けるための申請期間を考える必要があります。提出書類等に不備がなければそこまで時間はかからないですが、書類の出し直しなどを繰り返してしまうとそれだけ時間が押してしまいます。

建設費用は通常の住宅よりも高くなる

長期優良住宅の認定基準をクリアするために、特別仕様の家になるため、建設費用は通常の住宅よりも上がります。中には認定を行うために建設し普段は使用しないようなものも施工しなければなりません。(バイパス配管、床下点検口など)これらのものは普段使われることはまずありません。

5年、10年ごとの定期点検を行う必要がある

長期優良住宅の点検周期を新築時に届け出ていることから、点検が義務付けられています。点検の案内は各自治体から届くのですが、有償での点検となり、行うかどうかは家主の判断となります。

費用不足などにより、点検を行わなかった場合、長期優良住宅の認定を取り消される可能性もあるため注意が必要です。長持ちする家を維持する義務が長期優良住宅購入者には課せられていると言っても過言ではないでしょう。

長期優良住宅 実際に普及しているの?

上記のグラフは、平成24年までの新築マンション、新築戸建てのうちの長期優良住宅の割合を示したものです。新築戸建てでは25%程度、マンションでは1%程度、その年の全新築戸数のうち、長期優良住宅と認定されたというものです。

マンションの方が、認定数は少ないですが、マンションはマンション管理組合などがあり、長期にわたる修繕計画が既に立てられています。そのため敢えて長期優良住宅の認定を受けなくても、売却などの際に価値が落ちにくいからと予想されます。

長期優良住宅の数自体は年々増えており、減税や優遇制度もあり、お得な物件ではありますが、戸建住宅では3割にも満たない件数となっています。

長期優良住宅については否定的な見方をする人も

長期優良住宅の制度自体は広く知られており、毎年一定の件数での申請があるのですが、否定的な見方をする人もいます。それは、これから先、長期優良住宅に認定された住宅とそうでない住宅に、市場価値の違いが出てくるのかという部分での疑問です。どちらも同じ中古住宅として再度販売されるのですが、長期優良住宅として認定されているからと言って価値が同じになってしまっては意味がありません。

日本は新築戸建てが一番よく売れて、最も高い状態となりそれ以降は価値が落ち続けるという住宅市場となっています。長期優良住宅に、今後中古住宅市場でどれだけのプレミアがつくのか疑問を呈する人も多くいます。

長期優良住宅の制度はまだ始まったばかりであり、その結論が出るのはあと10年~20年はかかるでしょう。

まとめ 優遇措置で長期優良住宅を選ぶのも一つ

長期優良住宅は将来的な面ではまだまだ未知数な制度です。

しかし、税金控除や補助金などの優遇策が非常に魅力的です。

元々は、家を長持ちさせるために手入れしやすい家を作り、適度な点検、補修を行い、家の資産価値を高めるという目的の制度です。定期的な補修を行うことで家は長持ちします。そのためには、点検や補修の費用が必要となります。

これは家を資産と考えた時の投資と考えてもよいでしょう。家を資産に、ということで始まった長期優良住宅制度は、家の使い捨てを防ぎ、家に大切に住んでもらうための環境にも優しい制度となります。

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