投資信託ではベータ(β)やアルファ(α)という言葉を使います。これはギリシア文字で、栄養素や脳波の話のように聞こえますが、投資信託のパフォーマンスを分析するツールのことです。以下、βとαの文字で記します。

そもそも、投資信託(以下、ファンド)の運用者に何を求めるのでしょうか? 運用成果、すなわちパフォーマンスですよね。しかし、パフォーマンスと一言に言っても全て運用者が良いから上がったと判断するのは早計です。

βとは、投資対象資産市場全体の騰落率との連動度合い

投資信託のパフォーマンスを分析するツールのうち、βは投資対象資産市場全体の騰落率との連動度合いを指します。

たとえば、あなたが日本株の上昇を期待できると見てファンドを通じて投資するとします。そして、そのファンドが(信託報酬を除いて)期待通り10%上昇したとします。

βとは、この10%のうち日本株のリスクを取ったことで同種の日本株ファンドに投資した時にも得られる上昇の部分、すなわち日本株市場のリスクに賭けた対価だと考えてください。多くの場合、TOPIXや日経平均が市場を代表する指数ですので、βを取るとはそれらの指数の騰落率に賭けることと同義です。ただ、上述のようにβは市場全体との連動度合い(係数)なので、β=1の場合に指数通りの騰落率となります。

βは金融工学から出てきた用語です。完全に市場全体と同じ動きをする銘柄(相関係数=1)でない限り、個別銘柄に投資するより銘柄を分散させた方が銘柄間の負の相関効果により全体のリスクをうち消し合い、リスク対比ポートフォリオリターン(多くの銘柄を含む投資資産全体のリターン。配当や利子+価格の騰落)を向上させられます。すなわち、同程度の期待リターンを得るのにリスクを減らせるのです。

これを推し進めていくと、究極的には銘柄を最も多く含む指数に投資するのが個別銘柄の個別リスクを最小化できて一番効率性に勝るというのが金融工学の理論です。その時に一番効率化されたポートフォリオは、指数の上昇率と同じだけ上昇します。

指数の上昇にどれだけ追随するかの係数を「(マーケット)β」と呼びます。上記の指数ポートフォリオのβは1です。個別銘柄で言えば過去の統計上、指数の上昇(下落)時により大きく上昇(下落)する銘柄はβが1より大きく、指数の上昇とは正反対に下落するならβはマイナス1です。

過去の統計値なのでそのまま将来の予測値とはなりませんが、たとえば景気敏感株はβが大きく、景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ業種銘柄はβが小さい等、概してそういう傾向があるということになります。当然、投資する市場により追随する指数は異なり、個別銘柄のβ値も各々の資産の市場を表す指数との相関のみで使われます。

米国株の場合だとダウ平均やS&P500指数が代表的で、個別銘柄のβ値はこれらの指数との相関で語られます。業界では端的に、どの市場(日本株/米国株/世界債券 等)のリスクを取るかを「βを取る」という使い方もあり、その場合は日本株なら日本株のリスクを取ることを言います。

さて、小難しい説明を長々書きましたが、要点は、βは投資家であるあなたが選んだ資産の種類がもたらす結果です。つまり、ファンドが10%上昇し、そのうち日本株の指数の上昇が8%だとしたら、8%部分はあなたの資産選択が正しかった結果ということです。

αとは、運用者の巧拙がもたらす付加収益

これに対し、運用者が対象資産の市場全体の騰落率より上回った部分が2%あります。これを「超過収益」もしくは「アルファ」と呼びます。プラスαの「α」と覚えてください。

αは、運用者が市場全体のパフォーマンスを上回ることを目指し、銘柄選択や売買するタイミング、ある銘柄を指数に占める比率より多く持つ(オーバーウェイト)、あるいは少なく配分する、もしくは保有しない(アンダーウェイト)等により達成しようとします。

銘柄選択やタイミングを選ぶ手法は多様にあり、それを運用会社はプロセスとして確立、共有することにより、再現性、説明力を高めようとしのぎを削っています。たとえば、自社の価格評価モデルによる割安株や業種内比較での成長性等、計量モデルによるリスクリターンの妙味ある銘柄の発掘などです。

平たくまとめますと、対象市場のリスクがβ、その中で「うまくやる」のがαということです。

ベンチマークの役割とは?

投資対象の市場を自分で選ぶとして、パフォーマンスをβ部分とα部分に分ける役割を担うのが「ベンチマーク」です。そのままの意味は指標や目印です。これは運用会社が約款や目論見書に「○○をベンチマークとして、それを上回ることを目標とする」等、明記しています。

たとえば、ファンドの基準価額が下がって仮にあなたが20%損しても、ベンチマークとなる指数が△25%のところαが+5%で下げを緩和したのかもしれません。

この場合は、運用者は「うまく市場に勝った」と堂々と報酬に値するのです。たとえ投資家が損したのだからと納得できなくても、報酬を取るなということにはならないのです。βの選択をしたのは他ならぬあなたなのですから。また、αが5%で信託報酬が1%なら払う価値はありますが、αが1%なのに信託報酬が1.5% だとしたら割に合わなかったことになります。

結果が先にわかっていれば当然そのようなファンドに投資しないのですが、一期だけでなく大半の期に信託報酬ほどのαが出ていない、あるいはマイナスであるというファンドなら、指数同等のパフォーマンスが確実に期待できるインデックスファンドやETFに投資した方が理にかないます。

次回は、ベンチマークの役割をもう少し堀り下げてお伝えします。

林 俊宏