最高益更新が続く

2017年4月25日、電子部品メーカー大手の日本電産(6594)が2017年3月期決算を発表しました。実績は売上高が5期連続で増収・増益となり、過去最高を更新。また、営業利益、税前利益、当期利益も4期連続の増益となり、過去最高を更新しています。ただし、ほぼ会社予想通りだったため、特段のサプライズはありませんでした。

一方、2018年3月期の会社予想については増収・増益予想ではあったものの、市場コンセンサスをやや下回っています。しかし、同社の期初予想は例年保守的であることや、1ドル105円、1ユーロ110円と現状の為替水準よりも円高が見込まれているため、ネガティブサプライズというほどのものではありませんでした。

このように、決算数値そのものには大きなサプライズはありませんでしたが、決算発表の翌日に開催された決算説明会では、同社の中期的な成長を考えるうえで、いくつかの重要なメッセージがありました。

売上総利益率の改善に注力する

第1の注目メッセージは、2021年3月期に売上高2兆円(2017年3月期実績は1.2兆円)、営業利益率15%(同11.7%)を目指す同社の中期計画「Vision 2020」を達成するために、売上総利益率(以下、GPM)の改善に注力することが強調されたことです。

GPMの目標値については、2017年3月期実績の23.9%から2021年3月期には約7%ポイント改善の31%以上を目指すことが今回初めて明らかにされています。そのために、共通購買の促進、部品内製化による材料・外注費の削減や、スマートファクトリー化戦略(自動化やIoT化を進めること)で省人化を進め、直接労務費を削減する考えが示されました。

現在、同社はモータ専業メーカーを脱し、周辺回路までを含むモジュール製品を強化することで成長を目指しています。このため、今後は研究開発費の大幅な増加が避けられないなかで、いかに営業利益率を改善させていくかが課題でしたが、今回の説明でその解決策が明確になったと考えられます。

車載関連の受注は順調

第2は、2021年3月期の車載用モータの出荷台数が2017年3月対比で倍増が見込まれ、また、さらに上乗せの可能性もあると示されたことです。また、その背景として、電動パワステモータやEV用の高性能モータであるトラクションモータの引き合いが活発であることが示唆されています。

車載関連は現在の同社の成長戦略の最重要分野であるため、その受注・売上見通しが好調であることは極めてポジティブに受けとめられます。

M&Aで失敗しないための法則が明らかに

第3は同社がM&A巧者である理由が明らかになったことです。

4月25日には同社にとって53番目の買収案件となるドイツの冷蔵庫用コンプレッサーメーカー、セコップグループの買収が発表されています。

今回の決算説明会ではこの買収についても詳細な説明が行われましたが、その関連でM&Aの失敗を避けるためには、1)高く買わないこと、2)買収後の統合作業にトップ自らが強く関与すること、3)シナジー効果を積極的に作り出すことの3点が重要であるという考えが永守重信 会長兼社長から示されています。

日本郵政や東芝など巨額減損のニュースが絶えないなかで、新たな海外企業の買収が発表されたことから、同社も同じような失敗に陥らないかが気になるところでした。しかし、同社にはこのようにM&Aに関する明確なポリシーがあり、それにより失敗を回避してきた実績も豊富にあるので、今後もM&Aによる企業価値の向上に期待が持てるのではないでしょうか。

まとめ

26日の同社の株価は、日経平均が大幅高となるなかで4日ぶりの反落で引けています。ただし、上述の通り決算数値にはサプライズはなかったものの、中期ビジョン達成に向けての航路図は一段と明確になってきているため、この下落には深い意味はなく、短期筋による一時的な利食い売りによるものと考えられます。

ちなみに、26日の決算説明会は相変わらずの満席状態で、同社への注目度の高さが改めて実感されました。また、現在72歳の永守会長兼社長が、「売上高10兆円までは責任を持って経営トップを続ける、そのためにまず2021年3月期の中期目標をしっかりとやり遂げる」という趣旨のコメントしていたことも印象的でした。

今後も同社の成長への取り組みを注視していきたいと思います。

日本電産の過去10年間の株価推移

和泉 美治