4月6日に米軍がシリア空爆を実施して以降、マーケットは地政学的リスクという暗雲に覆われ、株式市場は世界的に下落しています。

前編に続き、トランプ政権の首席ストラテジストであるバノン氏の失脚と、トランプ氏の娘婿で大統領上級顧問であるクシュナー氏に代表される親イスラエル派の台頭から、トランプ大統領の政策大転換について整理します。

北朝鮮問題はイランとリンク、中国とは為替操作国認定で取引

対中強硬派のバノン氏の失脚で、トランプ政権の対中国政策も大きく転換した模様です。

トランプ大統領は就任初日に中国を“為替操作国”に認定すると公約していましたが実施せず、4月の為替報告書でも認定を見送りました。対中強硬派のバノン氏失脚、対中宥和派のクシュナー氏の台頭、親イスラエル色の強まりが複合的に影響した模様です。

クシュナー氏の不動産ビジネスへ中国の保険会社が巨額の投資で合意したとの話は、メディアや米議会から激しく批判されたことでとん挫した模様ですが、クシュナー氏にとって中国がビジネスパートナーであることは明白です。

そもそも人民元の下落を食い止めるために巨額の介入を実施している中国に対し、人民元を割安に操作しているとの主張に無理がある中で、為替操作国への認定を見送る代わりに北朝鮮の核開発や長距離ミサイルの開発を食い止める役割を中国に押し付けることができるのであれば、米国には得るものしかありません。

米国が北朝鮮の核開発に敏感なのはイランをにらんでのことであり、親イスラエル派の席巻でイランとの核合意を反故にしようとしている最中に、北朝鮮の核疑惑を見逃すわけにはいかないということです。

イエレンFRB議長は前言撤回し再任へ

バノン氏失脚はイエレンFRB議長の去就にも影響がありそうです。トランプ大統領はイエレン議長を再任しないと明言していましたが、親イスラエル派の勢力拡大で状況が変わった模様です。

イエレン議長とともに退任が見込まれていたフィッシャー副議長はイスラエルとの2重国籍であり、イスラエル中央銀行の前総裁でもありました。経済の司令塔であるコーン国家経済会議(NEC)委員長とムニューシン財務長官はともに世界最強のゴールドマン・サックス出身であり、ユダヤ教徒です。

バノン氏失脚でナンバー2にのしあがったクシュナー氏、FRB副議長、財務長官、NEC委員長の4人組が親イスラエル派で固まったことになります。

この4人組が現行のイエレン体制を支持しており、再任しないと言い切っていたトランプ大統領本人がイエレン議長を「尊敬している」とコペルニクス的な転換をしているわけです。イエレン議長の再任は既定路線となったと見てよさそうです。

トランプ政権は軍産複合体とウォール街・財務省複合体のハイブリッドへ

今回のバノン氏失脚により、トランプ政権はかつて盛隆を誇った軍産複合体とウォール街・財務省複合体がハイブリッドで復活することになりそうです。

クシュナー氏を中心とする親イスラエル派の台頭により、対イラン強硬路線を軸にした中東への関与は、現在のイスラエルとイランの張りつめた関係を踏まえると、米国史上最強の軍産複合体となる可能性を秘めている模様です。

その一方で、経済閣僚の主要ポストにゴールドマン出身者を起用し、金融規制の緩和を推進することに加え、ウォール街から信認の厚いイエレン体制も維持することは、90年代後半に米国の“一人勝ち”を体現したウォール街・財務省複合体をほうふつさせます。

オバマ前政権では、中東への不干渉、対イラン宥和策、金融規制強化により、軍産複合体とウォール街・財務省複合体はともに辛酸を舐めさせられてきましたが、トランプ政権では紆余曲折を経て、かつての“強いアメリカの象徴”がよみがえるのかもしれません。

LIMO編集部