「有事の金」が上昇した1週間

先週(2017年4月10日-4月14日)の世界の株式市場は、ほぼ全面安になりました。主要市場の週間騰落率は、現地通貨ベースで独DAXが▲0.9%、S&P500が▲1.1%、上海総合が▲1.2%、TOPIXが▲2.1%でした。なお、欧米の株式市場は金曜日が休場になっています。

先週のポイントは、
1. 北朝鮮・中東などで政治的緊張度が高まり、金(ゴールド)が約+3%上昇したこと
2. 主要国の国債価格が上昇し(=利回り低下)、世界で株価が下落したこと
3. 「有事のドル買い」にはならなかったこと
です。

先々週は金価格の動きが乏しく、リスクオフ(投資家が株式のような値動きの大きい資産を敬遠すること)の動きは限定的だと考えましたが、先週は軍事的緊張がさらに高まり金価格が上昇しました。金の年初来のパフォーマンスはさまざまな株式市場と比較して最上位群にあります。

このような中で、特に興味深いのは米ドルと米国国債の動きです。

地政学リスクを理由にリスク回避が進む場合、通常はこの両者がそろって上昇するはずですが、今回の場合、国債価格は上昇(=利回り低下)したものの、米ドルはほぼ全面安になりました。米国の10年国債の利回りは週間で約▲15ベーシスポイント低下しています。これは、他国の国債に比較して大幅な低下です。

この背景には、米国の景気指標が軟化し利上げペースについて慎重な見方が出ていること、またトランプ大統領がドル安・低金利を望むと発言したことが関係していると思います。

確かに、米国では先々週末の雇用統計、3月の消費者物価上昇率と2月、3月の小売売上高がいずれも弱めになりました。さらに言えば、対外政策に舵を切ったかに見えるトランプ大統領の姿に、国内の経済政策に対する期待がしぼんでいるのかもしれません。

こうした環境でドル売りの対象として動きが大きかったのは日本円で、約2%の円高になりました。北朝鮮に近いという地理的条件にもかかわらず円高が進むのは、日米安全保障条約の履行と日本による対米経済協調(円高調整による貿易均衡化など)がセットになっているという日本固有の状況認識が投資家に広がっているからでしょう。この円高が輸出企業の株安を通じて日本株に影を落としたことは言うまでもありません。

アウトルック:米企業の決算本格化へ。地政学リスクから縁遠い銘柄に突破口が見えるか?

今週(2017年4月17日-4月21日)は、地政学リスクの落ち着きどころと米国で本格化する企業決算がカギになるでしょう。

まず、地政学リスクの行方ですが、ポイントは事態収拾に向けた米国のシナリオが明確になるかです。着地点が見えずにずるずると事態が膠着することは外交上も内政上も財政上も好ましくなく、米国(米ドル)に対する信任にもかかわる恐れがあります。投資家がリスクオンに戻るために、トランプ政権の発信力に期待したいと思います。

とはいえ、仮に地政学リスクが燻ぶるとしても、市場は徐々に地政学リスクが少なく成長が期待できる国、業種、個別銘柄に選別的に目を向けていくと思います。米景気がやや鈍化しているとすると、米利上げは緩慢だがグローバル景気はまずまずという適温相場に戻るのが居心地が良さそうです。

今週予定される米国の3月の住宅着工件数、鉱工業生産、地区連銀報告、欧州の4月の消費者信頼感と製造業・サービスPMI、中国の1-3月GDPと3月の小売売上高、鉱工業生産がその手がかりになるでしょう。適温相場になるならば、極東を除くアジアの株式市場が相対的には健闘を続けるかもしれません。

さらに、米国では本格的な決算シーズンに入ります。トランプ大統領の経済政策に不透明感が高まるなかで頼りになるのは個別企業の今後の業績動向になります。

今週の決算発表予定は、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、ゴールドマン・サックス(GS)、IBM(IBM)、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)、クアルコム(QCOM)、フィリップ・モリス・インターナショナル(PM)、ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)、ビザ(V)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、シュルンベルジェ(SLB)、ハネウェル・インターナショナル(HON)、ASMLホールディング(ASML)などでいずれも気になる銘柄です。

たとえば、ネットフリックス(NFLX)の決算が市場のセンチメント改善のきっかけになれば好ましいのではないでしょうか。

椎名 則夫