4月6日付けロイターによれば、米国はアサド政権軍の支配下にある空軍基地に対し巡航ミサイルによる攻撃を行いました。安倍首相は7日、「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米国政府の決意を日本政府は支持する」と記者団に語ったそうですが、反発するロシアとの関係調整が憂慮されます。

本稿では、米国に依存する日本の軍事的・経済的な危うさについて考えてみたいと思います。

世界はバランス・オブ・パワー外交へ回帰、日本は大丈夫か?

まず、海外在住の立場から見ていますと日本は米国追従としか映らず、多極構造の世界ではかなり危ういように思われます。

17世紀以降の長い歴史上、国際社会では多極構造におけるバランス・オブ・パワー(勢力均衡)外交が基本です。1648年ウェストファリア体制の下、5~6の大国がバランス・オブ・パワーで国際政治を行い、第1次世界大戦までは多極構造でした。

その後は、2度の世界大戦を経て、二極構造(米ソ冷戦時代)、一極構造(1991年ソ連崩壊後の米国覇権)という異常な時期が続きました。

ここ4半世紀は、米国が一極構造を目指して米国型グローバルスタンダードを世界に広めようとしてきましたが、アフガニスタン、パキスタン、イラク、シリア、リビア、イエメン、ソマリアという7つのイスラム国で戦争をしかけ、結局失敗しました。そのため、すでにオバマ政権で「世界の警察」から退く方向へ舵取りしています。

今回のシリア空爆はトランプ大統領による単発的な作戦であろうと推察され、大きな潮流としては、やはり米国は軍事的に徐々に中東、東ヨーロッパ、東アジアから撤退するのでしょう。17世紀から第1次世界大戦までのような多極構造におけるバランス・オブ・パワー外交を基本としつつ、ウェストファリア条約が締結された頃のような宗教対立に戻るのかもしれません。

もし米国が東アジアから退けば東アジアの軍事・治安上のリスクがどうなるか、中国がいかに勢力を拡大してくるか心配されます。ただ、中国の領土拡張政策は多極構造におけるバランス・オブ・パワー外交の中では極めて自然な行動パターンです。

日本がいかに米国との軍事同盟を強化したとしても、米国は核兵器を持っているロシアや中国とは戦争したくないでしょうから、尖閣、南シナ海、北方領土でアメリカは日本を守ってくれないかもしれません。

北朝鮮についても、そこに米国の「国益」があるのかどうかわかりませんし、かつ核兵器を保有しているようなら、シリアとは異なり米国は簡単には手出しできないでしょう。

同盟国たる米国が日本の国家財政リスクを顕在化させる心配

世界経済を眺めますと、ノーベル経済学者スティグリッツが、すでに1930〜1952年の頃のような長期停滞(Long-run Stagnation)に入ったと指摘しています。ノーベル経済学者に言われなくとも、誰もが薄々感じているのではないでしょうか。

先進国も新興国のBRICSも景気低迷が深刻ですが、問題は需要不足です。1930〜1952年の長期停滞期を振り返ると、政府に活路を求めようと公共事業を増やし、そして戦争へ突入して長期停滞を脱しています。今日、核戦争になれば世界は破滅しますので、おそらく大戦にはならず、結果しばらく長期経済停滞が続くのかもしれません。

一方、日本は長期の経済停滞・デフレからなかなか脱出できていません。ところが、同盟国であるはずの米国トランプ大統領は、中国と日本を為替操作しているとして批判しています。

日本がそれを的外れの批判だと主張しても、万一、量的・質的金融緩和、つまり、事実上国家財政を支えている日銀の国債買入れオペ(注)が問答無用で縮小させられてしまったら、日本の国家財政リスクが顕在化してしまうかもしれません。

注:日本銀行が行う公開市場操作の一つであり、長期国債を買い入れることによって金融市場に資金を供給すること。

山積みのカントリーリスクに目を背けていないか?

以上のように軍事面・経済面で日本を取り巻く環境が厳しくなる一方、日本国内にも実に様々なリスクが山積しています。すなわち、高齢化社会の到来、労働人口の減少、産業空洞化、財政・国債破綻リスク、首都圏直下型地震リスク、福島原発問題等々です。

ところが、残念ながら今の日本は国内に山積するリスクに目を背けているように見えます。その代わりに、安倍首相の価値観外交なるもので、欧米流の自由主義、グローバリズム、正義、IT、金融工学、米国型株主資本主義等々、追従する米国を半周遅れで真似しているかのようです。

福澤諭吉が幕末のベストセラーとなった『西洋事情』において、西洋を支配している「蒸気機関、電信、郵便、出版」に舞い上がっているが、「驚愕、狼狽せしもの」として、この猿真似をしたら我が日本の近代化は大変なことになる、と指摘したそうです。残念ながら、海外から眺めれば今の日本もそのように見えてしまいます。

アベノミクスの検証をしないまま、経済大国という過去の栄光を引きずって「日本人の底力」、「世界が驚く日本」、「クールジャパン」という呪文を唱えているかのようで、景気付けの神輿は2020年東京オリンピック、リニアモーターカー、スカイツリーといったところでしょうか。

軍事面は政治家や専門家に任せるにしても、少なくとも経済面では、地に足のついた堅実な経営を実践する一人一人の経営者・起業家、ビジネスマンら民間部門の底力とイニシアティブに期待したいところです。

大場 由幸