今週から1-3月期の米企業決算が本格化します。米株式市場は、トランポノミクスへの期待感から昨年11月の米大統領選挙以降に大きく上昇してきました。ただ、最近はトランプラリーもお疲れぎみで、一部のメディアからはラリーの終息もささやかれています。
株式市場の見通しが少々怪しくなってきた中で迎える今回の米決算シーズンについて、直前の見通しと注目点を整理してみました。
1-3月期の増益率は12.0%と5年半ぶりの高い伸びへ
米調査会社ファクトセットによると、S&P500構成銘柄の1-3月期の利益は4月7日現在で前年同期比+8.9%と2013年10-12月期(+8.9%)以来の高い伸びが予想されています。
過去のデータを振り返ると、実際に発表された数字は事前予想を上回る傾向にあり、過去5年の平均値では決算期末の予想を2.9%ポイント上回っています。今回、3月31日時点での予想が+9.1%だったことから、最終的には+12.0%となることが期待できそうです。実現すれば2011年7-9月期以来、5年半ぶりの高い伸びとなります。
また、2011年10-12月期のS&P500の騰落率が+11.2%だったことを踏まえると、期待通りの数字となれば、短期間で大きく上昇する可能性もありそうです。
名目GDP成長率4%なら、株価は10%上昇を期待
S&P500の年初来騰落率は4月7日現在で+5.2%と、依然として高い伸びを維持しています。ただ、3月1日の最高値からは-1.7%と伸び悩んでいます。2016年は通年で9.5%上昇していますが、11月8日の大統領選挙後に10.1%上昇していますので、上昇はこの間に集中していたことが分かります。
2010年から2016年までの7年間を平均してみると、名目GDPは約4%で成長してきたのに対し、株価は約10%のペースで上昇しています。今年の米GDP成長率を実質で2%、名目で4%程度を想定した場合、株価は10%程度の上昇が期待できそうです。この場合、通年での上値余地はまだ5%程度あると考えてもよさそうです。
セクター別ではエネルギーで業績が急回復、増益に大きく寄与
セクター別では全11業種中8業種が増益、3業種が減益と予想されています。
増益に最も大きく寄与したのはエネルギーで、1-3月期は77億ドルの利益を上げた模様です。前年同期が15億ドルの損失であったことから利益の伸びは計算できませんが、エネルギーセクターのみで92億ドルの増益となる計算で、エネルギーを除くと予想利益の伸び率は8.9%から5.1%へと大きく低下します。
トランプ政権はコストが便益を上回るとして環境問題に絡んだ規制の緩和策を矢継ぎ早に打ち出しており、エネルギー業界はこれを大歓迎しています。ただ、業績の回復には原油高も大きく寄与しており、今後の業績は原油相場に左右される点が警戒されます。
増益率で見ると、金融が+14.3%と形式的にはトップとなります。バンク・オブ・アメリカとゴールドマン・サックスがけん引役と見られており、バンク・オブ・アメリカの予想EPSが0.35ドル(前年同期は0.21ドル)、ゴールドマン・サックスは5.26ドル(同2.68ドル)と予想されています。決算発表はともに18日に予定されており、要注目です。
トランプ大統領は、銀行の自己勘定取引を制限する“ボルカー・ルール”廃止などの規制緩和を目指しており、金融業界から歓迎されています。ただ、その一方で、商業銀行と投資銀行業務の分離を定めたグラス・スティーガル法の復活も明言しており、こちらの動きも気になるところです。
業種別で最も業績が悪化したのは産業で-7.3%と予想されています。減益を主導しているのは航空で、航空を除くと産業セクターの利益は-0.7%と減益はごくわずかにとどまります。注目はアメリカン航空とデルタ航空で、アメリカンの1-3月期のEPSは0.48ドル(前年同期は1.25ドル)、デルタは0.74ドル(同1.32ドル)と予想されています。序盤の12日にデルタの決算発表が予定されており、出鼻を挫かれることが警戒されます。
バリュエーションは割高、FRBも問題視
予想PER(株価収益率)は17.5倍と、過去5年(15.1)や過去10年(14.0)の平均値を大きく上回っています。1-3月期に株価が5.4%上昇したのに対し、予想EPSは1.6%の上昇にとどまったことから、昨年末の16.8倍からさらに上昇しています。
3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、現在の株価が“割高”であることが懸念されています。FRBが金融政策の焦点として雇用やインフレとともに株価にも照準を合わせてくるようですと、バリュエーションが落ち着くまでは買いづらい展開が続くことになるかもしれません。
セクター別では、最高値はエネルギーの28.6倍で最低値は通信の13.6倍となっています。10年平均はエネルギーが18.1倍、通信が14.4倍で、10年平均を下回っているのは通信のみとなっています。バリュー投資の観点から見ると、通信が魅力的、エネルギーは高すぎるということになりそうです。
ドル高を警戒、株価の上昇は年末までもたつく可能性も
FRBが金融政策の正常化へ向けたプロセスを着々と進めていることもあり、市場関係者の間で最も警戒されているのがドル高です。
海外売上高比率の高いセクターを上から順に並べると、テクノロジー(59%)、素材(49%)、エネルギー(43%)となり、今期の増益を主導している上位4セクターのうち金融を除く3業種が並んでいることもドル高が警戒されている背景にある模様です。
ただ、トランプ大統領はドル高を懸念していますので、トランプ政権がドル安政策を推進した場合には、予想以上の増益も期待できます。このように、ドルはプラスマイナス両面の可能性を秘めていると言えそうです。
今後の予想を見ると、4-6月期の利益は+8.8%、7-9月期は+8.3%と伸び率は鈍化する見通しで、10-12月期に+12.6%と高い伸びが予想されています。トランポノミクスの影響は新年度入りしてからとの見方を反映している模様です。したがって、夏場にかけては業績面からの株価の押し上げはあまり期待できないのかもしれません。
さらに、税制改革や規制緩和の動きが遅れることになれば、実績よりも予想の下振れが警戒されて、短期的な調整局面が訪れる可能性も排除できないでしょう。
LIMO編集部