新年度を迎えると従業員持株会の勧誘や見直しを求める会社が多いのではないでしょうか。従業員持株会とは、従業員が毎月天引きで一定額勤め先の株を共同で買い付ける制度です。いったん登録してしまえば手間がほとんどかからないため、身近で手軽な資産形成の有力な手段の1つと言われています。そこで、従業員持株会に入ることが本当にメリットになるのか、実例に基づいて考えていきましょう。
1. 従業員持株会とは
2. これだけは知っておきたい従業員持株会のメリット
3. 覚えておきたい従業員持株会のデメリット
4. 10年間毎月定額購入してみると儲かるのか
5. まとめ
1. 従業員持株会とは
従業員持株会は、従業員が勤めている企業の株式を従業員が共同で定期的に購入して資産形成を進める制度です。
2. これだけは知っておきたい従業員持株会のメリット
では、一般的な制度設計の従業員持株会のメリットを考えてみましょう。
2.1 少額でも始められる
たとえば、毎月1万円で買い付けることが可能です。
2.2 会社から奨励金が支給される場合がある
さらに、会社から福利厚生の一貫として奨励金が支給される場合があります。その場合は、より低コストで買い付けることが可能になります。
2.3 給与天引きで手間をかけずに株を買うことができる
給与から天引きされ毎月決まった日に買い付けますので、自分でいちいち資金を移動して買い付け手続きをする場合に比べて手間がかかりません。また、自社株を買おうとする場合、社内規定で買い付けができない場合やインサイダー取引に該当しないのか申告しなければならない場合がありますが、持株会制度での買い付けはその手間は不要になります。買い付けのタイミングで悩む必要もありません。
2.4 配当も再投資される
一般に、従業員持株会保有の株の配当は再投資されます。したがって、手間をかけずに効率的に自社株を増やしていくことができます。
2.5 会社の成長メリットを株価上昇として享受できる
従業員持株会の最大のメリットは、会社が大きくなったときに株価の上昇を享受できることです。
「業績が良いのに給与が伸びない」という会社が日本では残念ながら増えていますが、従業員持株会に入っていれば株主に分配される果実をしっかり手にすることができます。
2.6 幹部になるときにあわてて株を買う必要がなくなる
部長クラス以上になると自社株の保有を求められるケースが出てきます。社長になればなおさらです。突然大きな金額で自社の株を買うよりも、従業員持株会でじっくりと持ち株を増やしていくほうが購入負担を平準化できます。
3. 覚えておきたい従業員持株会のデメリット
3.1 売却の手続きが面倒
売りたくなった場合、持株会に対して自分の持ち株を自分の証券会社の口座に振り替える依頼をします。ここで少し心理的ハードルがあります。実際の売却は振り替え後に自分で行いますが、その際には社内ルールの順守やインサイダー取引にあたらないことを確認する作業が求められます。
3.2 株価が高くても機械的に買い付けが続く
毎月一定額を買い付けることが原則ですので、原則として株価が高かろうが低かろうが自動的に買い付けが続きます。
3.3 会社の業績が悪化すると給料ダウンと株価ダウンのダブルパンチ
一番の問題はこれです。自分の会社の業績が悪化すると給料が減ったり雇用リスクにもつながりますが、その場合、自社株の価格も暴落して持株会の自社株が資産価値を失う危険性があります。
4. 10年間毎月定額購入してみると儲かるのか
筆者は簡単にシュミレーションをしてみました。東証の各業種のなかで代表的な企業31銘柄を取り上げ、2007年4月から2017年3月まで毎月末に一定額の株を買い続けた場合、どの程度含み益ができるのか計算してみました(配当の再投資は考えていません)。
対象は、日本水産、大和ハウス工業、日本たばこ産業、東レ、王子ホールディングス、信越化学工業、武田薬品工業、ブリヂストン、旭硝子、新日鉄住金、住友電気工業、LIXILグループ、ダイキン工業、キーエンス、トヨタ自動車、HOYA、任天堂、東京電力ホールディングス、東海旅客鉄道、商船三井、ANAホールディングス、三菱倉庫、NTTドコモ、三菱商事、セブン&アイ・ホールディングス、三菱UFJフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、東京海上ホールディングス、オリックス、三菱地所、オリエンタルランドです。
また、東証株価指数(TOPIX)も同様に算出してみました。その結果は+42%の含み益となりました。これに対して上にあげた31銘柄の平均は+60%の含み益となり、悪くない結果です。
TOPIXを上回る成果があったのは18銘柄で、特にキーエンス(6861)、ダイキン工業(6367)、オリエンタルランド(4661)、大和ハウス工業(1925)は高い成果が出ました。
一方、13銘柄はTOPIXの成果を下回りました。特に含み損が出た銘柄が3銘柄あります(東京電力ホールディングス、商船三井、新日鉄住金)。
5. まとめ
いかがでしょうか。今回取り上げた企業は各業界のトップ企業ですので、平均的にTOPIXを上回る成果となっても不思議はありませんが、それでも約40%の銘柄がTOPIXを上回らなかったのは注目すべきデータです。
筆者としては次のように考えます。
- 従業員持株会は会社の成長を丸取りする便利な制度なので、自分の勤め先に自信がない場合を除けば少額でも取り組むべき。
- しかし、TOPIXのようなインデックスを上回る成果が出る保証はないことも事実。
- 従業員持株会のほかに、気になる会社やより分散されたインデックスファンドを毎月定期的に買い付けたほうが資産形成の効率は良さそう。
これを参考に、ご自身の資産形成の戦略と従業員持株会への取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。
LIMO編集部