人々は、統計数字を示されると、それが絶対の真実であると思い込み、語り手の言うことを信じる傾向があります。そこが悪徳統計使いの狙い目で、巧みに聞き手を錯覚させたり誤解させたりする場合が少なくありません。場合によっては、新人の統計使いが自分も誤解してしまう場合もありますが(笑)。
まずは、問題を4問考えてみましょう
第1問
グラフを見て、傾きが急であれば急増しているように見え、傾きが緩やかであれば、急増していないように見えます。では、以下の3社の中で、最も急激に売上を増やしているのは、どの会社でしょう?
第2問
某国の軍隊が、「我が軍人の死亡率は、国民の平均的死亡率より低い。我が軍は極めて安全なところであるから、学生諸君は安心して軍隊に志願すべし」という宣伝ポスターを貼りだしたとします。どう思いますか?
第3問
厚生労働省が凶悪犯の食生活を調査したところ、極めて危険な食材が見つかりました。なんと、凶悪犯罪直前の1週間に、95%を超える凶悪犯がその食材を口にしていたのです。厚生労働省は直ちに当該食品を禁止する法案を国会に提出しました。もちろん、読者の皆様も賛成ですよね?
第4問
財務省が全国の地方自治体を調べたところ、「警察官の数が多い自治体ほど犯罪が多い」ことがわかりました。財政再建と犯罪防止の一石二鳥を狙った「警察官削減法案」が国会に提出されたのは当然のことです。もちろん、読者の皆様も賛成ですよね?
グラフの傾きを見て成長率を論じるのは危険
では、第1問からコメントしていきましょう。A社の売上は、1から2に増えていますから、100%の増加です。B社の売上は、10から19に増えていますから、90%の増加です。C社の売上は、10から18に増えていますから、80%の増加です。
A社とB社の比較では、トリックはありませんが、目の錯覚を利用してB社が成長しているような話し方をすることは可能でしょう。
B社とC社の比較では、右軸(右目盛り)が用いられています。この手法は、善意の統計使いにとっては「変化が小さくて見にくいグラフを、その部分だけ拡大して見やすくする」ためのものですが、悪意の統計使いにとっては「成長率の低い自社がいかにも発展しているかのように自社の宣伝資料を作る」ために使われるのです。
パンフレットだと凝視する人がいますが、パワーポイントの画面を短時間で切り替えるのであれば、まずバレることはないでしょう(笑)。
軍人の死亡率は一般国民より低いから軍隊は安全な所???
軍人は、若くて、多くは健康的です。高齢者は定年退職させられますし、病弱な学生は軍隊を志望しても採用されにくいからです。したがって、死亡率が低いのは当然のことです。国民のなかから健康な若者を1,000人選んで死亡率を計算し、軍人1.000人の死亡率と比べれば、きっと軍人の死亡率の方が高くなっているはずです。
このように、サンプルの選び方が同じでない場合には、意外な結果が出ることがありますが、それは結果が悪いのではなく、サンプルの選び方が悪いのです。
たとえば、インターネットを使って「高齢者向けの支出を減らして若者向けの支出を増やすべきか?」というアンケートを取れば、おそらく答えは「イエス」でしょうが、それを見て政治家が行動すると、次の選挙で落選するでしょう。インターネットのアンケートに答えるのは主に若者ですが、実際に投票に行くのは若者よりも高齢者ですから。
犯罪者が食べているからと言って、危険とは限らない
第3問の答えはコメですが、禁止すべきでしょうか??? 「犯罪者の大半が食べているけれども、犯罪者でない人はほとんど食べていない食材」が見つかれば、それは禁止を検討しても良いでしょうが、犯罪者でない人も食べているのであれば、禁止すべきではないでしょうね。
警察官の多い街ほど犯罪が多いのは、犯罪が多いと警察官を雇うから
犯罪の少ない街は、税金が入ると公園を作りますが、犯罪の多い街は、税金がはいると公園を作らずに警察官を雇います。だから、統計上は警察官が多いほど犯罪が多いわけですが、因果関係を考えれば、犯罪が親で警察官数が子ですから、子が親に似ているのであって、逆ではありません。
第4問には、今ひとつ答えがあります。人口が多い街は、警察官数も犯罪数も多いのです。人口が親で、警察官数と犯罪数は兄弟だから似ているのです。人口1,000人当たりの警察官数と犯罪数を比べてやれば、こうした問題は解消できるのですが・・・。
「似ている」ことと「原因である」ことは、決して混同してはいけないのです。これは重要な点なので、後日改めて記します。
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塚崎 公義