賃貸アパート・マンションの情報を検索する時、「敷金、礼金、仲介手数料」が掲載されています。支払うのが当たり前のように記載されているこれら費用ですが、それらの金額は物件や不動産業者によって違っている場合もあるため、本当に必要なお金なのかと疑問を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。
なかでも、礼金については法的に明確な規定がなく、裁判にまで発展したケースも少なくありません。みなさんの中にも、この礼金という日本独自の慣習を理解されている方は決して多くはないと思います。
そこで今回は、礼金の性質、実状、相場、法解釈など、さまざまな角度から解説していきたいと思います。
そもそも礼金とは何のためのお金なのか?
敷金や仲介手数料に関しては、一般的にも法的にも一定の認識が為されています(敷金・仲介手数料の内容については後述)。
一方、礼金については法的な基準が無く、内容を詳しく説明できない不動産業者もあるほどです。
そのような慣習が放置されてきたのはなぜなのでしょう?それをヒモ解くには、礼金の歴史を知るのが近道です。
ぜひ知っておきたい礼金の由来とは?
“謝礼金”説
礼金の歴史をたどると関東大震災まで遡ります。震災後は損壊や火災などで家屋を失った人が多く、大家さんに対して優先的に貸家や貸し間を融通してもらい、その謝礼金として“こっそり”渡したのが礼金の始まりという説が有力と言われています。
“ご厄介金”説
礼金の発祥地が東京となった背景は、関東大震災以外にもあるようです。高度経済成長期の時代、多くの人々が集団就職で地方から東京に単身下宿する際、親御さんが大家さんに当てて、「身寄りのない息子がご厄介になります。何かあったらよろしくお願いします」という意味を込めて送ったお金という説もあります。
一方、北海道には礼金の慣習が普及せず、稀に礼金を取っている物件もあるようですが、取らないのが基本とされています。その理由として、北海道では、距離的な要因から東京よりも道内が就職先という方が多く、何かあっても駆けつけることができたため、礼金を払う必要がなかったのです。
現在の礼金は慣習というより制度化している?
前項の歴史背景から、礼金とは、「困難な状況にある人が、大家さんに対して“ひいき”してもらうように、あるいは、ひいきに対する感謝の心付け」であったと推測できます。
感謝の慣習であった礼金が現在は・・・
では、現在の礼金はどのような形で支払われているかというと、契約の際の必要経費として不動産業者が徴収するスタイルを取っており、“こっそり”渡していたかつての姿ではなくなっています。
しかも、東京圏ならではの慣習だったはずが、現在では全国各地に広がっているのです。こうなる、借りる側としては“必ず支払うべきお金”であって、感謝の意を込めて渡すお金という認識を持つことは無くなります。
そう、現在の礼金は「慣習ではなく制度」に形を変えてしまったのです。
賃貸物件を契約する際に必要な経費
ここで、賃貸物件を借りる際に必要なお金について表を用いて説明します。
近畿・西日本地方の「敷引」は、礼金とほぼ同義に捉えられることもありますが、中には礼金と両方徴収する要注意業者もあります。そういう場合は、礼金も業者の儲けになっていると見て間違いありません。
仲介手数料は、賃貸借の取りまとめに対する正当な報酬です。その報酬がゼロというのはどういうことでしょう?考えられることとして、仲介手数料ゼロでユーザーを誘引し、成約時は大家さんに礼金をバックさせて事実上の仲介手数料に計上していると考えられます。
と言うことは、仲介手数料と礼金の両方を徴収している業者の場合、二重に報酬を得ている可能性があります。
こんなコトになっている! 敷金・礼金の現状とは?
敷金・礼金がどのように使われるのかは別として、賃貸借では昔から当たり前に掛かるお金として認識されていたと言えるでしょう。ですが、近年はその常識に変化が出てきています。
前項で仲介手数料ゼロについて触れましたが、礼金にその役割を持たせることでゼロを可能にしていました。
しかし、敷金・礼金(特に敷金)ゼロとなると事情が異なります。
敷金・礼金ゼロで募集する理由とは?
ここで礼金とセットで支払う敷金にも目を向けてみます。「法的な解釈では、退去時に判明した滞納家賃、修繕費用、残置物の撤去費用など、家主側のリスクを担保する主旨の金銭」が敷金の目的であると前述しました。万が一、滞納家賃を踏み倒されたり、損傷個所があったり、粗大ゴミなどが放置されたまま退去された場合に、その負担分を敷金でまかなうことになります。
このように敷金には明確な目的があると考えられますが、しばしば礼金だけでなく敷金もゼロの物件を見掛けることがあります。一見、借り手に都合が良いように見受けられますが、当然に掛かる費用が必要ないとなると、何か問題があるのではないかと疑いを持ってしまいます。
なぜゼロなのか?その理由について説明していきます。
部屋に問題があるケース
敷金・礼金をゼロにしてまで募集するということは、その部屋自体に問題がある場合が多々見受けられます。
問題とされる該当例を挙げてみます。
- 築年数が古く、外観や設備などが旧式のため、他の物件と比べて見劣りする。
- 各部屋に浴室やトイレがなく、共同で使用しなければならない。
- 部屋が狭かったり、日当たりが悪い。
- 角部屋は従来は人気があったが、騒音や寒暖の問題から敬遠される。
- 心理的瑕疵(物件内で事件、事故、火災等)物件である。
環境面に問題があるケース
部屋そのものではなく環境面に問題のある物件もあり、敷金・礼金ゼロにしてユーザーの関心を惹こうとするケースもあります。
- 建物内に居住用以外(事業用、トランクルーム等)で貸し出している部屋があり、不特定多数の人の出入りがある。
- 入居者の中に問題(騒音、共用部分の使用マナー等)を起こす人がいる。
- 敬遠される施設(墓地、火葬場、ゴミ処理施設等)が隣接している。
- 近隣にコンビニ等の利便施設があり、深夜の騒音、ゴミ問題、交通障害等の問題がある。
敷金・礼金という表記をせず、別の名目で相応の費用を徴収される
特に敷金について、ゼロにして負担が少ないように見せていても、賃貸借契約書(備考欄など)に「クリーニング費用」「消毒費用」「原状回復費用」等が必要と記載されていて、敷金と同等かそれ以上の費用が発生する場合があるため、注意が必要です。
なかでも、使用してもいないのに、あらかじめ金額が明記されていたり、退去時にかなり高額な費用を請求されたりするケースもあり、消費生活センターに相談が寄せられるなどトラブルになることもあります。
相場より家賃が高い
相場より家賃が高いと募集はなかなか難しくなるため、初期費用を抑えられる敷金・礼金ゼロで注意を惹こうとします。それ自体は特に問題はありませんが、前項と同様の扱いだったりする場合がありますので注意が必要です。
ちなみに、このような物件の大家さんですと、アパートローンを組んでいる方がほとんどで、ローンの返済がギリギリだったり、税金や修繕積立金が考慮されていないなど、アパート経営計画上に問題があるため、止む無く家賃を高く設定しているケースもあります。
単なる空室対策
従来は満室状態だったものの、近隣に新築アパートが建つなどしてアパート同士で競争が生じると、空室になっても簡単には決まらなくなるため、何らかのメリットを提示する必要に迫られます。
そこで、ユーザーを呼び込むために敷金・礼金ゼロにする場合があります。空室対策のための敷金・礼金ゼロの中には、掘り出しモノも無くはありませんが、敬遠せざるを得ない物件の可能性が高いでしょう。
デメリットが多い敷金・礼金ゼロ物件
上記の通り、敷金・礼金ゼロ物件の多くは、何らかのデメリットを抱えていると考えられます。
下表にデメリットと注意事項を要約しましたので参考にしてください。
知らなきゃ損する! 礼金の実態とは?
どうなっている? 全国各地の礼金事情!
地域によって礼金の扱いが異なることを最初の項でお話ししましたが、ここで各地域の礼金事情について見てみたいと思います。家賃と同様、礼金にも相場があるとされており、当然ながら各地で相場は異なります。
また、「敷引」制度に見られるような礼金と敷金の使い道が混在してしまっているケースもあることから、敷金と礼金を1セットで相場を見てみる必要があります。
※数値はいずれも各地域の平均
※月数は家賃の1ヶ月相当額を表す
上表から、敷金+礼金の相場は“西高東低”であることが分かり、近畿圏以西では敷引(または保証金)の関係から礼金なしとするところが多くなっています。
また、敷金+礼金の違いは契約時に掛かる初期費用(前家賃+敷金+礼金+仲介手数料)にダイレクトに反映され、北海道と首都圏ではその差が2倍にもなります。
初期費用の合計を見てみると、仮に北海道(札幌市)で1Kタイプ家賃5万円の部屋を借りた場合、5万円×3~4ヶ月=15~20万円ですが、東京都(23区外)で同等の1Kタイプで6万円程度とすると、6万円×7~8ヶ月=42~48万円となって20~30万円程度の差額が生じ、その他に付帯費用や引越し代が掛かることになります。
もちろん家賃相場の違いが作用しているのは確かですが、敷金礼金もその差に大きく影響していると見て間違いないでしょう。
制度の“あいまいさ”を利用した礼金の上乗せ行為が横行している?
前述で、仲介手数料ゼロでユーザーを誘引し、成約後に大家さんから礼金をバックしてもらい、仲介手数料に計上することが当たり前になっていたり、仲介手数料と礼金の両方を徴収し、二重の報酬を得ている業者には注意が必要とお話ししましたが、さらに悪質な手口を使う業者もいます。
その手口は礼金の上乗せ行為で、本来なら1ヶ月の礼金を2ヶ月にしてしまうのです。具体的には、1つの取引で2つの業者(大家さん側と借主側)が関わる場合に、借主側業者から「礼金を2ヶ月に上乗せしてもらえませんか?」と大家さん側業者に持ち掛け、その1ヶ月はその借主側業者が仲介手数料に計上してしまうのです。
他にも、ユーザーからの問い合わせ物件が決まってしまったからと別の物件を紹介し、その物件に礼金を上乗せするケースもあります。このケースは、問い合わせ物件が“おとり物件”になっていることも考えられ、その場合は宅建業法違反となり、業務停止処分などの重い処分が科せられます。
法律で礼金はどのように解釈されているのか?
ここまでの説明で、礼金の性質が「謝礼金、ご厄介金という心情的な性質を持つお金」から「制度化された必要不可欠のお金」または「不動産業者の報酬」に変わってしまったことがご理解頂けたのではないかと思います。果たして、この現状に問題はないのでしょうか?法律的な解釈から見て行きます。
礼金に関する判例(裁判の判決実例)
過去、礼金に関する裁判は数多く行われていますが、礼金の是非については判断されていません。
礼金が有効であるとする判例
参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BC%E9%87%91
この判例は、「礼金ありの物件である」「途中解約でも返還されない」と認識して契約したのだから、借主の礼金負担は有効であるという内容です。尚、この判決ののち、入居期間が極端に短かったり未入居で解約した場合は、礼金の一部を返還するよう命じる判例も見られるようになりました。
礼金が無効であるとする判例
裁判沙汰になるほどですから、有効の判例もあれば無効の判例もあるはずです。しかし、これまでに礼金(制度)を全面的に無効とする判例は出ておらず、前項の短い入居期間や未入居の場合で一部返還を命じるにとどまる判例となっています。
これらの判例から、原状では礼金は法律的に有効という解釈が通例になっていることになります。
まとめ
慣習として始まった礼金ですが、必要経費という制度に姿を変え、法律もその存在を認めるかのような風潮になっています。
支払う側の借主としては、不動産業者に対して、消費者契約法に基づく礼金の説明を求め、仲介手数料として扱う金銭ではない旨を書面で明示させるなどの心構えをしておくことが、現時点で可能な対抗措置になるでしょう。
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