この記事の読みどころ

トランプ政権の財政政策の今後を占う試金石と見られていた医療保険制度改革法(オバマケア)を改廃する法案(AHCA)の採決が断念されました。断念に至った背景と、今後を占う上での注目点を述べます。

オバマケア修正法案:共和党修正案は不人気、最終的に採決見送り

米国下院共和党は2017年3月24日、可決に必要な票を確保できなかったため医療保険制度改革法(オバマケア)を改廃する法案(AHCA)の採決を断念しました。これにより、オバマケアの撤廃を公約に掲げていたトランプ政権の政策課題を実行する能力に疑問符が付く結果となりました。

トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し、可決には恐らくあと10~15票足りなかったと述べています。採決は、当初3月23日に予定されていましたが、24日に延期、そして結局、採決せずとなりました。

どこに注目すべきか:オバマケア、CBO、保守強硬派、融資

オバマケアの見直し法案(代替案)が採決見送りになった要因は、代替案が不人気であったため与党の共和党をまとめられなかったからと見られます。

当初提出された代替案では2026年までに財政赤字が3,365億ドル削減できるという内容でした。一方で、医療保険でカバーされなくなる無保険者が2,400万人増える(オバマケアのままでも2,800万人が無保険者となるため、合計で5,200万人が無保険者となる)という犠牲が求められる内容でした。ところが、当初の代替案では共和党内がまとめられないとして、共和党は3月20日に代替案の修正版を公表しました。

この修正案に対し、米国連邦議会の超党派(中立)機関である議会予算局(CBO)が財政への影響を試算したところ、2026年までの財政赤字の削減額は当初案の3,365億ドルから修正版では1,503億ドルへ縮小すると試算されました。これでは財政赤字削減効果が低くなるという結果です。しかも、無保険者は当初案と変わらず2,400万人増えるという、首をひねりたくなる内容でした。

オバマケアの見直し法案の内容で右往左往する中、トランプ政権の身内のはずの共和党は一枚岩になれませんでした。米国下院の過半数は216議席です。下院共和党(237議席)が過半数を有するも10~15票足りなかったというのであれば、共和党から30人以上が反対したものと見られます。

反対の一部は共和党の穏健派(または低所得者の多い州から選出された共和党議員)です。同法案(代替案)が成立すれば無保険者が大幅に増えることを懸念しているからです。

一方、反対の多くはティーパーティの流れをくむ保守強硬派と見られます。保守強硬派はより完全なオバマケア撤廃を求めているからです。このグループは30人程度です。このように、同じ共和党でも反対の理由はバラバラで、党内にある意見の相違を埋めることは困難であったと想像されます。

ただ、市場ではトランプ大統領の採決見送りを受け、今後は税制改革により本格的に着手するとの見方から、まだ期待は残されているとの声もあります。

また、昨日は米下院共和党議員が、医療保険制度改革(オバマケア)の改廃に再び取り組むことを検討していると報道され、市場ではドルが買われるなど、オバマケア見直し法案復活の可能性を捨てていないことが分かります。今後の動向に注視が必要です。

なお、企業マインドを占う上で気になるデータがあります。米連邦準備制度理事会(FRB)が公表している商業銀行統計の中の、「不動産以外の融資を示す商業・産業融資」で、企業への融資を示すデータです。

当データは、金融危機時を除き安定的に増加しているため、普段は気にも留めないのですが、米国大統領選挙後頭打ちとなっています。企業の投資マインドが萎縮したことで、融資が軟調となった可能性もあるからです。もっとも、融資の軟調な動きの要因として、米国の利上げ(昨年12月と今年の3月)の影響の可能性などが考えられます。

したがって、トランプ政権の期待先行に不安を感じ、投資を控えた結果、融資が伸びないという状況にまで企業心理が悪化しているとは現状では思われませんが、今後の動向に注意は必要と思われます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文