市場から国債が消える?

3月23日、日本銀行が保有国債を売却すると発表しました。スタンダードな経済理論で考えると、日銀自体が国債を売却するのは市場のマネーストックを吸収してしまうため金融引き締めのときに使うものです。

ただ、今回の場合、国債自体が品薄状態になっているため、金融機関が国債を担保にした資金取引(レポ取引)ができないという事情があり、日銀が買戻し条件付で売却を行うということになっています。

それにしても、年間で150兆円近くもの発行額がある国債が品薄状態とは相当切迫した状況に見えますが、いったい国債はどこへ消えてしまったのでしょうか。

新規発行国債のほとんどを買い漁ってしまう日銀

日銀は 2013 年 4 月に量的・質的金融緩和(QQE)を導入し、今年4月で丸4年になります。その具体的な方法は、長期国債買入れオペ(日銀オペ)により毎月大量の国債を市場から買い取るというものです。

上図は、財務省が発表する国債管理のデータ「消化方式別発行額」を加工したものですが、これによると平成29年度の国債の新規市中消化発行分は148兆円となっています※。
※個人向け販売や日銀乗換(日銀引受)を除く。

そして、この「市中消化」されるというのは、民間の金融機関が国債を購入することを意味します。

金融機関は、自身の運用方針に従うポートフォリオ管理のために国債(中心は長期国債)を購入するわけですが、国債の場合は株のように半永久的に保有することができません。債券には償還日があるため、金融機関は定期的に新規の国債に乗り換えないといけないのです。これをロールオーバーといいます。

新規発行の国債のうち短期債の23.8兆円を差し引いた124兆円ほどの枠で、民間金融機関は長期国債を購入できるということになります。

ところが、年間80兆円の新規国債買い入れと年末までに償還される約40兆円近くの再投資により、新規に発行される国債124兆円のほとんどが日銀に買われてしまいます。これにより市場の国債不足が発生してしまいました。

日銀の国債買いオペによる副作用

民間金融機関は日銀の長期国債買いオペに協力するため、この4年間国債保有残高を減らし続けています。

財務省が発表する最新の「国債発行総額の推移」を見ると、(借換債などを除いた)実質的な新規発行分は34兆円しかありません。つまり、80兆円から34兆円を差し引いた46兆円分の国債が、民間金融機関のポートフォリオから日銀へと売却されるのです。

これでは国債が消失してしまい、ポートフォリオにぽっかりと穴が開いてしまったようなものです。では、運用手段の一つを失った金融機関は、ロールオーバーできなかったお金をどこに向けているのでしょうか。

ここでは資金循環統計を使って、量的・質的金融緩和(QQE)導入前と導入後の預入取扱機関(都銀や外資銀行など)と保険+年金の資産残高を比較してみましょう。

2012年末と比較すると、現在は両者ともかなり違う資産の形になっていることがわかります。つまり、量的・質的金融緩和(QQE)導入で以下のような副作用が出てきたと考えることができるでしょう。

  • 預入取扱機関は現金預金をこの数年でかなり増やしています。これは日銀当座預金の一部には0.1%の金利がついているため、量的緩和から逃げるための手段として預入れが急増したのだと思われます。
  • 保険や年金は、国債保有残高を増加させている一方で、預入取扱機関はここ4年で約100兆円近く残高を減少させています。
  • 預入取扱機関は株式やデリバティブへの投資を増加させています(2012年末と比較して株式投資信託は190%、デリバティブは178%)。
  • 預入取扱機関、年金+保険も対外証券への投資を増加させています。
  • 設備投資への貸出は増加しているものの、他と比べて勢いは感じることができません。本来であれば国債への投資から設備投資に資金が流れていって、実体経済の後押しをするべきところですが、なかなかうまくいかない様子です。

日銀の国債買いオペの限界

昨年の衆議院財務金融委員会で、黒田日銀総裁は長期国債購入を60-70兆円ほどまで減らすことはあり得ると発言しました。つまり、日銀の「80兆円をめどとした買いオペ」は減額される可能性もあるようです。

それにより、副作用だった国債保有残高の大幅な減少は緩和されることでしょう。しかし、その程度の減額では、前述の46兆円をカバーすることにはなりませんし、今後も民間金融機関のポートフォリオから国債が消えていくことには変わりありません。

その中で、預入取扱機関がどこまで国債残高を減らせるかが今後の焦点になってくると思います。預入取扱機関が協力できる限界まで達したとき、日銀の買いオペの対象は、保険や年金が保有する国債になることでしょう。しかし、保険や年金は、現状のALM管理上、大量の国債売却の要請を受け入れることは難しいと思うのです。

ということは、預入取扱機関が白旗を上げたときが、日銀買いオペの限界と考えることができるのかもしれません。

齋藤 浩史