【繰下げ受給】ソン・トクの見極めポイント

ここからは「繰り下げ受給」が得となる人、損となる人を見極めるポイントを解説します。

見極めポイント1.平均寿命・健康寿命との関係

厚生労働省の「令和2年簡易生命表」によると、男性の平均寿命は 81.64 歳、女性の平均寿命は 87.74 歳です。これを見ると、先ほどの表で男性の場合は繰り下げても70歳まで、女性の場合は75歳まで繰り下げてもメリットがあるように思います。しかし、年金が増えても、寝たきり状態であったら、年金を有効に使えません。

もう一つの指標に、「健康寿命」というものがあります。これは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。健康的に日常生活が送れる期間ということですね。同省の「健康寿命の令和元年値」によると、男性の健康寿命は72.68歳、女性の健康寿命は75.38歳となっています。

つまり、75歳まで年金受給を遅らせても、健康ではなくなっている可能性が高いということです。老後の楽しみのために年金を使うことができないのであれば、繰り下げ受給をする意味がないと考えてしまう人は多いでしょう。

見極めポイント2.在職老齢年金との関係

繰り下げ受給をする場合、その繰り下げている期間の生活費を確保しておかなければなりません。たいていは仕事を続けて収入を得るパターンでしょう。

65歳以降も仕事を続けて、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給すると、年金と給与の合計額によって、年金が減額または支給停止されることがあります。これを「在職老齢年金」といいます。

「繰り下げ受給をして、年金を受け取らなければ減額されないのでは」と考える人は多いでしょう。しかし、実際に受給しているかどうかは関係なく、本来の65歳受給の年金額を使って計算するので、合計額が基準(47万円)を超えれば減額されてしまいます。そして、その減額された部分は、繰り下げ受給をしても増額の対象とはなりません(基礎年金は影響ありません)。

もう一つ、「加給年金」を受給できる場合も、繰り下げによって、加算がなくなる場合があるので気を付けましょう。加給年金は65歳未満の配偶者や18歳未満の子(一定の障害がある場合は20歳未満)の生計を維持している場合に老齢厚生年金に上乗せする形で支給されます。

そのため、繰り下げによって、年齢要件から外れてしまうと支給がなくなってしまいます。また、加給年金部分は繰り下げても増額の対象とはなりません。

見極めポイント3.税金と社会保険料の負担増

繰り下げ受給をして年金が増額されると、それに応じて、所得税や住民税、社会保険料の負担も増えます。税金は、65歳以上で年金以外の収入がない場合、所得税は158万円以下、住民税は155万円以下であれば非課税となります。そのため、繰り下げ受給による増額で、このラインを超えてしまうと課税されるため手取りが減ることになります。

また、国民健康保険料(75歳からは後期高齢者医療保険料)と介護保険料の負担は大きいため、税金以上に手取りに影響します。増えた分以上取られることはありませんが、手取りで考えると、思った以上は増えなかったと感じるかもしれません。

見極めポイント4.マクロ経済スライドによる年金額の改定

マクロ経済スライドとは、少子化による年金加入者の減少率と平均余命の伸び率を踏まえて、年金額を調整することです。これによって、賃金や物価の伸びよりも年金額の増加を抑えて、将来世代の給付に備えます。

つまり、少子高齢化が加速している状況の中では、将来的な給付水準は年々下がっていくことになります。遅らせれば遅らせるほど、給付水準が下がっていくのなら、繰り下げ受給の増額効果は薄くなっていきます。むしろ繰り上げ受給で早めに受給しておいた方が得ということも考えられなくはありません。