3月15日に実施されたオランダでの総選挙では、反欧州連合(EU)や移民排斥を掲げる極右政党・自由党(PVV)が伸び悩み、第一党を逃しました。

ブレグジット(英EU離脱)、米大統領選挙、イタリア国民投票否決など一連の政治イベントで拡大していた反グローバリズムの勢いがひとまず弱まったことで、欧州の主要株価指数は軒並み上昇となり、主要国の国債利回りも低下するなど市場は今回の結果を好意的に受け止めた模様です。

とはいえ、“好事魔多し”との格言もありますので、今回の選挙結果を踏まえたリスクオンの流れに死角がないのかどうかを探ってみましょう。

反グローバリズムの流れに変化なし?

一時は支持率でトップを走っていたオランダ自由党(PVV)が失速した背景には、中道勢力が相次いで右傾化した影響があるようです。

今回の選挙で、からくも第一党を維持した与党・自由民主党(VVD、中道右派)のルッテ首相は「オランダ社会への統合を拒む移民は出ていくべき」と主張して愛国心に訴えたほか、中道勢力のキリスト教民主同盟(CDA)も学校での国家斉唱を義務付けるなど国粋主義的な政策を主張して選挙戦を乗り切りました。

これは、リベラルな国として知られているオランダでは異例な状況だったと言えます。したがって、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党と呼ばれたPVVの敗北は、与党VVDをはじめとする中道勢力が急速にポピュリズム政党化したことが影響しており、ポピュリズムそのものが後退したからではないのかもしれません。

PVVのウィルダース党首は、EU離脱に関する国民投票を実施する意向を示していましたので、今回の選挙結果を受けてオランダがEUから離脱する懸念は大きく後退しました。

ただ、ルッテ首相は自国優先主義、トランプ米大統領風に言えば“オランダ第一主義”を強調することで国民の支持をつなぎ止めている状況ですので、オランダが内向きになっていることは確かと言えそうです。

今回のオランダ総選挙では、英国民投票で見られた“グローバリズム”対“反グローバリズム”という構図が崩れ、反グローバリズムを前提にしたコップの中の争いとなった観は否めません。

よって、選挙結果は反グローバリズムのドミノ現象に歯止めがかかったことを示唆しているわけではなく、むしろ欧州では排他的な移民政策を主張して右寄りの政策を打ち出さない限り、選挙には勝てなくなったことを示しているのかもしれません。

“強すぎるドイツ”がテーパリングを催促か

オランダ総選挙を無事に通過したことで、市場はリスクオンの動きとなりましたが、政治リスクの後退はECBにテーパリング(量的緩和策の縮小)を促す可能性がありそうです。

ECBは昨年12月の理事会で、資産購入プログラムの延長と同時に購入額の減額を決定しています。ECBは否定していますが、購入額の減額はテーパリングにほかなりません。つまり、金融政策の正常化に向けて動いていると言えます。

プログラムの延長には政治リスクへの配慮が伺えますので、政治リスクの後退はテーパリングの動きを加速させるかもしれません。ECBがテーパリングを急ぐ背景には“強すぎドイツ経済”という悩ましい問題がある模様です。

ドイツの潜在成長率は1.0%程度と推計されていますが、2016年のGDP成長率は1.7%と一人勝ちの状態にあります。また、1月のドイツ消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.9%まで上昇していますが、ドイツ10年物国債の利回りはわずか0.4%となっており、より短期の国債、たとえば2年物国債の利回りはマイナス0.7%とマイナスの状態が続いています。

ドイツ経済を見る限り、もはやECBのマイナス金利や量的緩和政策は支持できない状況となっています。また、ドイツ経済にけん引されてユーロ圏全体も緩和的な金融政策を正当化できなくなりつつあります。

3月の理事会でECBは2017年のユーロ圏のGDP成長率見通しを1.8%とし、昨年12月の見通しから0.1%ポイント上方修正しています。ユーロ圏の潜在成長率は1.2%と推計されていますので、従来から高かった成長率見通しがさらに加速しているわけです。インフレ率の見通しも2017年は1.7%と従来の1.3%から0.4%ポイントも上方修正しています。

景気見通しが上方修正されたにもかかわらず、金融政策は現状が維持されており、違和感が大きくなっています。ですので、オランダ総選挙をひとまず無事に通過したことに続き、仏大統領選挙も無難な結果となった場合にはテーパリング、すなわちマイナス金利の解除や量的緩和縮小の動きへの警戒感を強める必要があるかもしれません。

欧州での政治イベントの不透明感が薄らぐのであれば、米利上げにも追い風になる可能性があります。特にユーロが買い戻されることでドル高が是正された場合、利上げによるドル高を懸念するトランプ大統領や米連邦準備理事会(FRB)に安心感を与えることになりそうです。

欧州の政治リスクを引き続き注視、金融政策への目配りも

オランダ総選挙でポピュリズム政党への支持が伸び悩んだのは、他党がポピュリズムを取り入れたからであり、ブレグジットから始まる反グローバリズムの流れに変化は伺えません。

したがって、フランスでの大統領選挙やドイツの総選挙でポピュリズム政党が台頭する可能性も否めず、欧州での政局は依然として波乱含みであると言えそうです。

一方、政治リスクが後退した場合、欧米での金融政策正常化への動きが加速する恐れがありますので、よろこんでばかりもいられないのかもしれません。

LIMO編集部