東芝の支援に日本政策投資銀行の名前があがる

経営危機の渦中にある東芝の再建を巡り、いよいよ公的資金による救済が現実味を帯びてきました。2017年3月17日には複数のメディアが、東芝から分社化され2017年4月1日に発足する「東芝メモリ」に対して日本政策投資銀行(以下、DBJ)が一部出資する可能性を報じています。

東芝は、東芝メモリの出資社を募るために3月29日に入札を行う予定です。現時点では、米国からはウエスタンデジタル、キングストン・テクノロジー、マイクロン・テクノロジー、KKR、ベイン・キャピタル、台湾からは鴻海(ホンハイ)グループ、TSMC、韓国からはSKハイニックスなど約10社が関心を示していると伝えられています。

こうしたなかで、DBJが米国のファンドなどと組み、”日米連合”で東芝メモリの買収を模索する背景には、資金力が豊富な中国、台湾、韓国に買収されることで高度な半導体技術がアジアへ流出してしまうことを阻止する狙いがあるとされています。

また、こうした考え方は東芝も共有しているようであり、3月14日に開催された決算延期の理由を説明するための会見において、東芝の綱川智社長も半導体の売却先については、「国の安全(保障)にも絡むので意識しながら選びたい」とコメントしています。

そもそも日本政策投資銀行とは

では、ここにきて東芝メモリの出資候補社として浮上してきたDBJとは、どのような組織なのかを簡単におさらいしましょう。

DBJは戦後日本の復興や社会インフラへの長期投資をサポートすることなどを目的に、国により設立された日本開発銀行と北海道東北開発公庫などを前身としており、これらが統合され2008年に株式会社として発足しています。

株式会社化した目的は、民間からの資金も受け入れることでしたが、その後の金融危機や東日本大震災などの影響により、現時点でも株主の100%は政府となっています。ちなみに、2016年3月期末の資本金は1兆4億2,400万円、 総資産額は15兆8,089億円、貸出金残高は13兆1,193億円となっています。

また、事業目的は「出資と融資を一体的に行う手法その他高度な金融上の手法を用いることにより、長期の事業資金に係る投融資機能を発揮し、長期の事業資金を必要とするお客様に対する資金供給の円滑化及び金融機能の高度化に寄与すること」とされ、貸出だけではなく、メザニンファイナンス、エクイティファイナンスなどのリスクマネーの提供も行えることが特色となっています。

日本政策投資銀行の出資でも倒産したエルピーダメモリ

このように、DBJは株式会社ではあるものの、全額が政府出資となっているため、公的資金とみなすことができます。また、そのようなDBJから出資を受けるということは、東芝メモリは政府のお墨付きの“日の丸半導体メーカー”になるということにもなります。

ただし、ここで思い出しておきたいのは、DBJにより2009年に300億円の出資を受けたエルピーダメモリが2012年に会社更生法を申請し上場廃止となったという過去の歴史です(その後、エルピーダはマイクロン傘下に入り復活を遂げています)。

もちろん、エルピーダが手掛けるDRAMと東芝メモリのNANDとは同じメモリでも市場環境は大きく異なることや、両社の市場ポジションや競争環境も異なっていることには留意が必要です。ただ、DBJから出資を受けられたら未来永劫安泰とは必ずしもならないということは、教訓として覚えておきたいところです。

モラルハザードにならないのか

3月17日には訪米中の世耕弘成経済産業相が米国高官と会談し、東芝問題について意見を交わしたことも伝えられており、この件はますます複雑化しています。

もちろん、東芝問題は東芝1社だけではなく、日米のエネルギーインフラの問題にも関連する大きなイシューでもあります。また、19万人の従業員を抱える大企業であるため、破綻した場合の社会的な影響の大きさを考慮しなければならないことは言うまでもありません。

とはいえ、一方で、安易な政府の介入は「大企業、国策企業だから優遇される」という不公平感や、経営者責任、貸手責任、株主責任などを曖昧にしてしまうモラルハザードの問題を引き起こしかねないことにも十分な配慮が必要であるとも考えられます。

17日の東芝の株価は日経平均が下落するなかで+3.5%上昇と逆行高となっていますが、これは政府の介入の可能性を「近視眼的」にポジティブにとらえたためと考えられ、「悪材料出尽くし」を示すものではないことには十分に注意したいと思います。

和泉 美治