吉野家の業績に対して投資家はどのような期待を持ったのか

結論から言うと、業績だけではなく「会社と投資家それぞれの予想のミスマッチ」も要因だった可能性があります。

株価は一般的に、「期待」「事実」のふたつの要素で動きます。

期待とは、「今後、この会社は業績が伸びそうだ」という未来に関する投資家の思惑です。

ここで、2017年2月期1Qから2022年2月期3Q累計までの、各決算における営業利益の「対通期計画の進捗率」を見てみます。

なお、通期の進捗率とは、3Q累計決算発表時点の通期予想と実績を比較したものです。

株式会社吉野家ホールディングスのIR情報より筆者作成

2017年2月期

  • 1Q:4.4%
  • 2Q累計:27.8%
  • 3Q累計:35.3%
  • 通期:54.9%

2018年2月期

  • 1Q:17.0%
  • 2Q累計:48.5%
  • 3Q累計:59.0%
  • 通期:91.3%

2019年2月期

  • 1Q:-4.3%
  • 2Q累計:5.0%
  • 3Q累計:-51.1%
  • 通期:9.5%

2020年2月期

  • 1Q:104.4%
  • 2Q累計:293.6%
  • 3Q累計:80.3%
  • 通期:109.1%

2021年2月期

  • 1Q:57.0%
  • 2Q累計:68.6%
  • 3Q累計:61.3%
  • 通期:61.3%

2022年2月期

  • 1Q:-7.6%
  • 2Q累計:26.8%
  • 3Q累計:51.7%

こう見ると、2020年2月期の1Qと2Q累計での進捗率が上半期のタイミングにもかかわらず100%を超え、通期予想を超過していたことがわかります。

2Q累計に至っては、293.6%にものぼっています。

これを受けて投資家は「今後、業績予想が大幅に上方修正されるだろう!」と見越して多く買いを入れたのではないでしょうか。

その結果、株価が近年で最高値の水準を付けた可能性があります。

しかしその後、3Q単体で営業赤字を計上するなどして営業利益の伸びは減速し、3Q累計時点の進捗率は80.3%まで下がり、通期実績も当初計画比109.1%での着地となりました。

業績予想の上方修正を期待していた投資家からすると失望を誘ったようで、3Q決算の発表以降株価は急落し、そのタイミングでコロナの蔓延が始まりました。