キリンビールを傘下に有するキリンホールディングス(2503)の株価が、バブル崩壊以来の高値更新となりました。長らく経営不振に苦しんでいたブラジル子会社を損切りしたことが株式市場から評価された形となりました。
キリンホールディングスの株価が高値更新
2008年にも高値更新目前まで株価の上昇を見せたキリンホールディングス(以下、キリンHD)ですが、その際は高値を更新できずに株価は失速。2,000円付近がキリンHDの株価の天井となっていました。
しかし、2017年3月についに2,000円付近の天井を上抜けして高値の更新を達成しています。
頭痛の種だったブラジルのビール事業から2月に撤退
キリンHDは2011年に、ブラジルのビールおよび清涼飲料大手のスキンカリオール・グループを約3,000億円で買収。スキンカリオール社はブラジルのビール市場でシェア2位、清涼飲料市場でシェア3位であり、キリンHDの現地企業買収によるブラジル進出は、日本企業の本格的な海外企業M&Aとして大きな注目を浴びました。
しかし、その後ブラジル経済は低迷。キリンHDのブラジル事業も不振が続き、2015年12月期にはブラジルの事業において約1,000億円の減損を行う事態になりました。
一向に業績の回復を見せないブラジル事業に対し、遂にキリンHDも撤退の決断を下し、2017年2月13日にブラジル子会社の全株式を世界的ビール大手である蘭ハイネケングループのババリア(Bavaria)に売却すると発表しています(注)。
ブラジルからの撤退を契機に株価上昇
約3,000億円を投じたブラジル事業を約770億円で売却することとなり、大きな損切りを余儀なくされたキリンHDですが、株式市場はキリンHDのブラジル事業の損切りを評価しました。
実際、キリンHDのブラジルからの完全撤退発表後、株価は上昇を開始します。過去からのサポート&レジスタンス(サポレジ)のゾーンである1,800~1,900円を抜けられなかったキリンHDの株価ですが、ブラジル撤退表明後の株価上昇はサポレジを気にすることなく上昇。
1988年のバブル時代、2008年のリーマンショック前に付けた2,000円付近の節目の価格もアッサリ上に抜けての高値更新となりました。ブラジル事業についてはキリンHDの経営陣だけでなく、株式市場にとっても頭痛の種となっていたことが明らかになった格好です。
東南アジアでブラジルのリベンジなるか
既に少子高齢化と人口減少が進んでいる日本においては、ビール市場の伸びは期待できません。そんな中、キリンHDはブラジルで大きく挫折した海外展開を、ミャンマーを始めとする東南アジア市場でリベンジマッチに挑もうとしています。
株価のさらなる上昇には成長ストーリーが必要不可欠
ブラジル事業の損切りが株価上昇のきっかけになったという、何とも皮肉な展開となっているキリンHDの株価の値動きですが、今後の株価上昇のためには成長ストーリーが欠かせません。
国内ビール事業の強化も発表されていますが、縮小する国内市場での事業拡大には限界があるため、事業成長には海外展開での成功が必要不可欠となります。そのためには、海外事業としては再チャレンジとなる東南アジアでの展開の成功が、さらなるキリンHD株価上昇の必要条件になると言えるのではないでしょうか。
経済の発展とともに消費量も増える傾向にあるビールですが、キリンHDがブラジルにM&Aで参入した際、オリンピックも控えブラジル経済の先行きは明るいと言われていたこともあるので、簡単に楽観視することはできない点には注意が必要です。
まとめ
ブラジル事業が頭痛の種だったのは、キリンHDの経営陣だけではなく、株式市場も同様だったという非常に興味深い事実が発覚したキリンHDの株価の値動き。この上昇を一時のものとしないためには、やはり今後の事業の成長が必要不可欠となります。
その意味では、現在キリンHDが注力しているミャンマーを始めとする東南アジアでの海外展開の成否が、今後のキリンHD株価の行方を握っていると言えるのではないでしょうか。
ブラジルでの失敗の教訓を生かして、キリンHDは海外事業でリベンジすることができるのか、今後に注目です。
LIMO編集部