この記事の読みどころ
米国の金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)が3月14~15日に開催されます。ほんの数週間前まで、市場では3月FOMCでは政策金利は見送られるとの見方が有力でした。しかしイエレン議長は3月3日の講演で利上げの可能性を示唆しました。
もっとも、イエレン議長の講演前に、市場では既に3月利上げを織り込んでいたため、講演後の市場の反応は小幅でした。それでも、今回のイエレン議長の講演は米国の金融政策を見る上での注目点の整理に役立つと思われます。
イエレン議長講演:成長持続なら3月利上げが適切となる可能性を示唆
米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は、2017年3月3日にシカゴで講演しました。
講演の中でイエレン議長は米連邦公開市場委員会(FOMC)が3月(14~15日)の会合で雇用とインフレが当局の期待に沿って引き続き改善しているか検証すると述べました。その場合、(政策金利の)フェデラルファンド(FF)金利のさらなる調整が適切になる可能性が高いという表現などで、3月の利上げを支持する考えを明確に示唆しました。
どこに注目すべきか:実質中立FFレート、PCEデフレータ、原油価格
イエレン議長の講演前にFOMCの他のメンバーが3月利上げに前向きの発言を繰り返していたため、市場では既に3月利上げを織り込んでいました。たとえば、FRB理事の中でもハト派(金融緩和を支持する傾向)の1人と見られ、利上げに慎重な姿勢も示していたブレイナード理事は、利上げがすぐに適切となりそうだと述べています。
他のFOMCメンバーも3月利上げを支持する発言をしており、イエレン議長の講前に既に市場では3月利上げを織り込む動きが見られていたため、イエレン議長も利上げを支持する講演内容であったものの、講演後の市場の反応は小幅でした。それでも、イエレン議長の講演には米国の金融政策を見る上での注目点を整理するのに役立つ面もあります。
たとえば、イエレン議長は金融政策の現状認識について、現在の米国金融政策は緩和的と述べています。指標として(従来から繰り返し述べていることですが)実質中立FFレートを基準として示し、現在の実質中立FFレートの水準は概ねゼロ近辺と認識していると述べています(これは、仮に実質政策金利が0%ならば、政策スタンスは中立であるという意味です)。
しかし、現在の実質FFレート(実質の政策金利)はインフレ率(個人消費支出デフレータ)で調整すると約マイナス1%となることから、現在の金融政策は緩和的であると指摘しています。
そうなると、次に米国経済が金融緩和(マイナスの実質FF金利)を必要とするほど悪いのかが問われます。この点、米国経済についてイエレン議長は人口増から想定される雇用者数の伸びと比べ、過去半年、非農業部門雇用者数は平均18万人程度も増加するなど雇用市場の堅調な回復が見られると述べています。
また、原油価格の回復という一時的な要因が主な背景にせよ、インフレ率も上昇傾向であることから、金融緩和政策を維持する必要性がなくなりつつあるという内容を述べています。
ただし、このようにイエレン議長の話を整理すると、何やら急に利上げが盛り上がった感のある3月利上げですが、米国の景気回復などは以前から見られますので、講演では明確でなかった要因も、想像ながら、3月利上げを急いだ理由として付け加えた方が良さそうです。
では、どのような要因を付け加えるべきか? 1つは欧州の政治状況です。たとえば、フランスの大統領選挙は4月から5月に予定されています。選挙の結果によっては市場への影響から利上げに慎重となることを迫られる可能性もあります。
米国の財政政策の先行きも気がかりです。議会で財政策を巡る財源の議論は年度後半になるほど厳しくなる可能性があります。議論の行方が不透明となることで、金融政策の自由度が奪われる可能性もあります。
また、原油価格回復を受け上昇しているインフレ率が仮に今後落ち着いた場合、そこで利上げに消極的となれば、後に急激な利上げを迫られるリスクもあります。先に利上げをしておけば、後はインフレ率の動向で利上げペースの自由度が確保できるというメリットも考えられます。
なお、ピクテでは米国の今年の利上げ回数について、従来は6月と12月の2回と見ていましたが、3月の可能性が高まったことから、3月と6月以降に1回の合計2回の利上げに加え、インフレ率の動向によっては年3回となる可能性が高いという見方に変更しました。