コーポレートガバナンスは何をするためのもの?
「コーポレートガバナンス(Corporate Governance)」という言葉を聞く機会が増えています。最近では東芝の不正会計問題で取り上げられたことが記憶に新しいと思います。
東京証券取引所(東証)が2004年3月にとりまとめ公表した「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」では、「コーポレート・ガバナンスは企業統治と訳され、一般に企業活動を律する枠組みのことを意味する。」と定義されています。
「律する」とはどういうことでしょうか。会社の業務執行は、代表取締役、業務執行取締役、代表執行役、執行役などの経営者が行います。いわゆる社長などの権限は大きいのですが、社長が何でも勝手にやっていいというわけではありません。
というのは、その権限は、資本の出し手、すなわち株主の信任によるものだからです。経営者は取締役会によって選任されますが、その取締役会(や監査役会)を選任するのは株主です。
株主の権利や利益を守り、会社の価値向上を実現するためには、経営者が不正を行ったり暴走したりしてはなりません。それを防ぐのもコーポレートガバナンスです。
そのためには、経営の執行とその監視・監督が分離していることが必要になります。すなわち、執行側の経営者(社長など)と監視・監督側の取締役会・監査役会による体制が機能していることです。
「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」では、「株主と経営者との関係を律するための枠組み」をいかにして有効に機能させるかということが、コーポレートガバナンスの中核的な問題であるとしています。
欧米での企業の不祥事の多発がきっかけに
コーポレートガバナンス強化の流れはもともと、欧米で始まりました。
2001年から2002年にかけ、米国ではエネルギー大手のエンロン社、通信大手のワールドコム社が経営陣も関与した粉飾決算などの企業不祥事により破綻しました。これらを受けて、米国は2002年に「企業改革法(サーベンス・オックスレー法/SOX法)」を制定しました。
英国ではこれに先立つ1992年、企業の破綻や粉飾決算が相次いだことを受けて、「キャドバリー委員会報告書」を公表しています。さらに、1998年に現在のコーポレートガバナンス・コードの前身となった「統合規範」を公開、2010年にはこの統合規範を投資家側、発行体側(企業側)に分け、前者を「スチュワードシップ・コード」、後者を「コーポレートガバナンス・コード」として公表しました。
このほか、フランスやドイツでも各種の報告書が出されています。経済協力開発機構(OECD)も1999年には「コーポレート・ガバナンス原則」を発表しています。
日本では2015年から「コーポレートガバナンス・コード」の適用が始まる
1990年代後半から、日本ではバブル崩壊とともに、山一證券、足利銀行、ライブドア、オリンパスなど、企業の不祥事が相次ぎました。
これらが問題視されるたびに、会社法、金融商品取引法、証券取引所規則などが強化されてきましたが、「そもそも、これらの原因はコーポレートガバナンスの欠如にあるのではないか」といった議論がなされるようになってきました。
さらに、日本の上場企業における外国人投資家による保有比率が高まるにつれ、「モノを言う株主」が増え、海外の機関投資家の中には、日本企業に対して直接、コーポレートガバナンス強化を求めてくるところも出てきました。
これらの動きを受けて、安倍政権は、「日本再興戦略」にコーポレートガバナンスの強化を盛り込むとともに、2014年2月には、金融庁が機関投資家の行動原則である「日本版スチュワードシップ・コード」を策定し、2015年6月には東証が企業の行動原則である「コーポレートガバナンス原則」を公表し適用が始まりました。
日本版「コーポレートガバナンス・コード」の内容については、紙幅の都合で別の機会に述べたいと思いますが、不祥事の防止など「守りのガバナンス」だけでなく、「会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば『攻めのガバナンス』の実現を目指す」(東証の資料より)としている点が特長の一つです。
下原 一晃