バブル崩壊後、日本経済はデフレに悩まされ続けて来ました。そこで、「物価の番人」と呼ばれる日銀が、なんとインフレ率2%を目指すと宣言することになったわけです。それでも、なかなかインフレにはならず、日銀のインフレ率目標は、永遠に達成されないのではないか、といった雰囲気が漂っています。

しかし、これは大変危険な考え方です。特に資産運用を考える際には、インフレに備えることが必要です。株や外貨がリスク資産であるのと同様に、現金や預金もインフレで目減りする可能性が高いリスク資産なのです。

労働力不足で賃金が上昇し、インフレ圧力に

これまで、団塊の世代が引退するなど、少しずつ労働力の供給が減りつつありましたが、長期にわたる不況で労働力が余っていたため、そのことに気がついた人は稀でした。

それが、アベノミクスによる景気回復を契機として労働力が不足するようになり、表面化したのです。川の水位が少しずつ下がってきたのに誰も気付かなかったのが、川底の石が顔を出したことで皆が気付いた、といったイメージでしょう。

アベノミクス景気が続くか否かはわかりませんが、確実なのは労働力の供給が少子高齢化で減り続けて行く、ということです。10年もすると、「不況でも労働力が足りず、好況だと労働力不足が極めて深刻だ」といった状況になるかも知れません。

労働力不足は、賃金を上昇させますので、「ワーキングプア」と呼ばれている人々がマトモな暮らしができるようになります。それは良いことなのですが、企業は人件費が上がりますから、これを売り値に転嫁しようとするはずです。

特に、サービス業は売り値に占める人件費の比率が高く、省力化投資も難しいので、人件費の上昇がストレートに値上げに結びつきやすいでしょう。理髪業について考えてみれば、明らかでしょう。

物不足によるインフレの可能性も

人件費の上昇が価格に転嫁されるだけではありません。極端な場合には「現役世代が高齢者の介護に忙しく、物を作る人がいないので物が作れない」といった事態も起こりえます。

輸入できるものは良いのでしょうが、輸入できないもの(理髪サービス等)などは、需要に供給が追いつかず、値上がりしていくかも知れません。「金持ちは理髪店へ行き、貧乏人は自分で髪を切る」といったことも考えられるでしょう。

予測ではないが、ハイパーインフレの可能性にも要注意

経済予測の際には言及しませんが、投資を考える際にはテールリスク(確率は非常に低いけれども、発生すると非常に大きな影響を与えるリスク)のことも念頭に置いておく必要があります。本稿で指摘するのは、大災害と国債暴落によるハイパーインフレ(超インフレ)です。

今後30年以内に南海トラフ大地震が発生する確率は70%とも言われています。多少割り引いて聞いたとしても、テールリスクと呼ぶには相応しくない、結構な確率です。

実際に南海トラフ大地震が発生して、東京と名古屋と大阪が地震と津波で壊滅したとしましょう。猛烈な復興需要が発生する一方で、生産能力は激減していますから、圧倒的な資材不足に陥り、ハイパーインフレになるはずです。

今ひとつのテールリスクは、国債暴落です。「日本政府が破産する」という噂で人々が国債を投げ売りするようなことが起きたら、影響は広範囲に及びますが、確実なのは「破産するような国の通貨を持っていたいと思う人はいない」ということです。
人々は我先に日本銀行券をドルや実物資産に交換しようとするでしょうから、猛烈なインフレになるはずです。

誰も新発国債を買ってくれないので、政府は国債の借り換えができません。すると政府が日銀に紙幣を印刷させて国債を償還することになり、その意味からもハイパーインフレになりかねません。

ドル、株、物価連動国債などに分散投資しておくべき

日銀が目指しているような緩やかなインフレに対しては、ドルや株が心強いインフレ対策となるでしょうが、テールリスクに際しては、株は頼りになりそうもありません。一方で、大地震や国債暴落の時にはドルが圧倒的に頼りになりそうです。

筆者は、政府が破産するとは思っていませんから、株やドル(外国株投信を含む、以下同様)や個人向け国債10年物などにバランスよく資産を振り向けていますが、「財政赤字で政府が破産する」「少子高齢化で年金が受け取れない」と考えている人は、ドルを多めに持っておくと良いでしょう。

いずれの場合でも、時間分散を考えて、コンスタントに少しずつドル(あるいはドルおよび株)を買っていくことをお勧めしておきます。

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塚崎 公義