京都の上場企業には、任天堂、村田製作所、京セラなど高収益の企業が多い。そのほかにも日本の技術を支える島津製作所、GSユアサなどハイテク企業も多い。今回は、なぜ京都には高収益企業が多いのかを考えていきたい。そのカギは意外にも京都・祇園のお茶屋や京都という都市の立地にあった。
任天堂のビジネスモデルはお茶屋にあり
古くはファミコンやゲームボーイ、いまではニンテンドー3DSやWii U、Nintendo Switchなど任天堂(7974)のゲーム機を知らない人はほとんどいないであろう。その任天堂のビジネスモデルは、実は京都のお茶屋のビジネスモデルをマネたものである。
では、お茶屋のビジネスモデルとはどのようなものか。難しく言うとプラットフォームビジネスであり、平たく言うと場所プレミアム貸しビジネスとでも表現したらよいだろうか。では、細かく見ていくとしよう。
お茶屋は、何もイベントがない日は座敷は空いている。もちろん平日の昼間などは、舞妓さんなどに踊りのお稽古で場所を貸すこともある。しかし基本は夜が宴会などが稼働する時間だ。
宴会時には舞妓さんや芸妓さんはもちろんのこと、懐石料理なども事前に外部にお願いをし、当日にはしっかりと準備を整えてお客様を迎えられるようになっている。お茶屋はコーディネーターと、当日の宴会運営が滞りなく進むためのサポート役を兼ねている。
任天堂は他人が得意なところは任せる
では、任天堂はどうであろうか。
任天堂はこれまで様々なゲーム機を発表しているが、実際のモノ作りは外部に任せている。任天堂がシャープに出資をしたホンハイを昔から製造外注先として使っていたことは有名だ。
ちなみにアップルのiPhoneもホンハイに発注されている。その役割分担をアップルは明確にしている。アップル製品の裏側には以下のような表記がある ー"Designed by Apple in California Assembled in China(デザインはカリフォルニアのアップル、組み立ては中国)"
こうすることで任天堂は自ら生産設備を持つ必要がなく、固定費や生産ラインのための投資や減価償却が必要なくなる。
また、任天堂はゲーム機のコンテンツを自分たちでも作りこみ、マリオやゼルダシリーズなどのゲームソフトを発表している。
その一方で、他社ソフトウェアメーカーにも開発機やハードウェアとしてのプラットフォームを公開し、ソフトウェアの提供をしてもらっている。その取り組みの中で、スクウェア・エニックスやカプコンなどのゲームソフトウェア会社が大きくなってきた。プラットフォームを取り巻く周辺企業を積極的にサポートする中でエコシステムが強化されていったのである。
任天堂は自分たちだけに有利なプラットフォーム運営をしているという批判もあるが、本当に自分たちだけが有利なビジネスを展開しているのであれば、任天堂のゲーム機がここまで普及し、任天堂そのものも大きくなったであろうか。
もちろん、任天堂が開発するハードウェアの入力インターフェース(コントローラーなど)が扱いにくいという指摘がソフトウェアメーカーからされるところもあるが、そこは任天堂のプラットフォームであることと任天堂のソフトウェアの良さを最大限引き出すための手段であることを考えれば致し方ないことであろう。
任天堂からしてみれば、自分たちのプラットフォームに外部から参加したソフトウェアメーカーがヒット作を飛ばすことで自社のハードウェアが普及し、さらにソフトウェアが売れるというのがメリットのある姿である。いずれにせよ、自社、顧客、参加企業の「三方よし」でなければ、プラットフォーム運営は成功しない。
このように自分たちの限られたリソースの中で最も得意な領域に集中し、またエコシステムをより強固なものにして収益を最大化させる工夫をしてきたのが任天堂である。
アップルもマネる任天堂のビジネスモデル
その一方で、アップルはiPhoneやiPadなどのハードウェアの普及を拡大させるとともにiTunesやAppStoreでコンテンツを配信する仕組みを整備してきた。任天堂がゲームで行ってきたことを、ゲームだけではなく音楽やその他のアプリで同様の展開を図ってきたのだ。
任天堂は現在、アップルのiPhoneようなスマートフォンというプラットフォームに対し、ゲーム専用機プラットフォームをどうしたらより魅力的に見せることができるかに苦心している。通話を含むほとんどの機能はスマートフォンに吸い込まれてしまった。スマホ以前は、ゲーム専用機は独自の入力インターフェースを武器にコンテンツとの掛け合わせでユーザーのゲーム体験を魅力的にしてきたのだ。
ところが、"Pokemon GO"のようにGPSによる位置情報や通信機能を使ったスマホアプリゲームの爆発的人気を見れば分かるように、ユーザーがゲームの面白さを体験するのに現状では必ずしも入力インターフェースがポイントになっていない状況もある。任天堂はまさにゲーム専用機をどのように再定義することができるか注目されている。
千年の都でありながらリソースが限られている京都
限られたリソースをいかに有効に使うのかというのは企業だけではなく、多くの人が生活する都市でも同じようなことが言える。京都には様々な伝統文化があるが、その中でも焼き物である清水焼は代表的な例であろう。
京都は昔から土がないといわれ、京都以外から土を調達して焼き物を作ってきたようだ。人が多く集まる都で器の需要がある一方、焼き物に向く土が入手できないという状況で、外部から土をうまく調達して京焼という産業を作り上げてきたわけである。
もっとも京都に土が足りないというのではなく、京という都で使うのにふさわしい焼き物に合った土が京都になかったので外部から調達してきたという説もある。また、清水焼に代表される京焼が薄いのは貴重な土を有効に使ったからであろうという推測や重いものを持ちたがらない公家の要求に合わせたなどの諸説があるが、いずれにせよ目的を達成するために制約条件をうまくクリアしてきた京都の歴史といえよう。
焼き物がコア事業の村田製作所
焼き物といえば京都には関連する企業がある。それはセラミックスを得意とする村田製作所(6981)だ。
村田製作所は積層セラミックコンデンサでは世界でも有名な企業だ。詳しくは村田製作所サイト内の積層セラミックコンデンサの製造工程を見ていただきたいが、焼成工程とメッキ工程があるところを見ると、まさに焼き物である。
村田製作所の創業者の村田昭氏がセラミックコンデンサの初期製品であるチタンコンデンサを試作する際にも、何度も焼いては失敗する場面が出てくる。こちらも詳しくは村田昭氏の創業ストーリー漫画を見ていただきたいが、満足する製品を作るために何度も挑戦する姿は陶工を彷彿とさせる。
焼き物は土に含まれている物質、またそれらの配合や釉薬などの組み合わせで出来栄えが決まる極めてブラックボックス的要素の多い商品である。つまり、製造装置を購入したからといって簡単にはマネができない製品である。よって、顧客の要求するスペックが出せるのであれば、それ相応の付加価値を得ることができるビジネスなのである。
液晶パネルや太陽光パネルのように製造装置を購入すれば生産できる製品とは異なるのが、焼き物を商品としている村田製作所のような企業の高収益の背景である。
まとめ
このように、京都の企業が高収益である背景には、京都で長らく繫栄するお茶屋のビジネスモデルや、限られたリソースを有効活用してきた京都という町の歴史があると考えると面白い。
その他京都に関連する銘柄
- 京セラ(6971)
- 島津製作所(7701)
- 堀場製作所(6856)
- GSユアサ コーポレーション(6674)
- 日新電機(6641)
- エスケーエレクトロニクス(6677)
- ローム(6963)
- 日本電産(6594)
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青山 諭志