この記事の読みどころ

ひょっとするとトランプ大統領が円安批判などを持ち出すのではと、注目と懸念を集めた日米首脳会談では、友好ムードが演出され、日米同盟では安全保障の協力関係が再確認されるなど成果が見られます。

日米経済関係については通商交渉などでは対立が懸念される分野もありますが、懸案の米国による円安批判は封印された模様で、インフラ投資など協力関係が期待される分野も示された点が会談の成果と思われます。

日米首脳会談:日米同盟、経済関係の一層強化へ強い決意を確認

安倍首相とドナルド・トランプ米大統領は2017年2月10日、ワシントンで初の日米首脳会談を行いました。

共同声明は、安全保障関係を中心とする日米同盟と日米の経済問題について言及、安全保障については(米国の日本防衛義務を定めた)日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることが確認されました。

どこに注目すべきか:日米安全保障条約第5条、円安批判、TPP

注目の日米首脳会談の成果を、安全保障の協力関係を再確認した日米同盟と、円安批判の形跡が見られない日米経済関係の2つに分けて注目点を述べます。

まず、日米同盟については、声明で明確に日米安全保障条約が、中国と国境問題で対立の懸念される尖閣諸島に適用されると述べている点は、安全保障上、明るい材料と見ています。

また、当然のことながら、日米同盟の重要性が経済問題と切り離された格好で再確認された点も安心材料です。在日米軍基地の負担見直しや、市場の一部で懸念されていた安全保障と経済をセットにした交渉(悪夢?)は杞憂(きゆう)似終わった格好です。

想定以上の日米同盟の強さが確認されたことで、日米首脳会談期間中を狙ったかのような北朝鮮のミサイル発射に対しても、週明けの日本の株式市場は比較的冷静な動きとなっています。

株式市場は北朝鮮のミサイル発射だけが変動要因ではないこともあり、過去の北朝鮮のミサイル発射と日本の株式市場の下落に明確な相関関係は見られません。それでも、少なくとも北朝鮮のミサイル発射がプラス材料とは考えにくい中、日米同盟に対する今回の声明内容は不幸中の幸いと思われます。

次に、日米経済関係について注目したのは次の点です。

まず、最も安心材料であったのは、トランプ大統領から円安を非難した形跡が日米首脳会談では見られないことです。

そもそも円安進行の背景は米国の政策金利引き上げが主な要因と思われるのですが、トランプ大統領は日米首脳会談の前には日本の通貨政策を批判したこともあるだけに、日米首脳会談前には大きな懸念となっていました。しかし会談では円安批判は封印された格好で、落ち着くべきところに落ち着いたといった印象です。

ただ、通商問題について声明で、「自由で公正な貿易のルールに基づいて…(中略)…経済関係を強化」という文章が盛り込まれたのは気がかりです。米国の公正(フェア)と日本では解釈が異なる可能性があるからです。いつまたトランプ大統領が日本の為替政策は不公平だと言い出すか、予測は困難です。

次に、日米経済関係についてですが、、経済対話の枠組みは麻生太郎副総理とペンス副大統領のもとに設置するとしており、経済問題の詳細は先送りされた感もあります。

そのような中、声明で注目したのは環太平洋パートナーシップ(TPP)についてです。米国の離脱と、二国間の枠組の模索に言及する一方で、既存の仕組みを基礎にした地域レベルの進展を目指すようなことが書かれており、何やら新たなTPPを想像させるような文言が見られるからです。

最後に、日米首脳会談で名前の挙がったビジネス分野を見渡すと、米国または日米にメリットがある分野が有望と思われます。たとえば、インフラ投資は日本の高い鉄道技術力への期待が高いようです。

次に、声明では安全保障への対応として防衛イノベーションに二国間の技術協力を強化するとしています。具体的には、宇宙およびサイバー空間の分野で二国間の安全保障協力を拡大するとしています。

日米の経済関係については対立が懸念される分野も多々ありますが、協力関係が期待される分野も示された点は会談の成果と思われます。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文