2月に入っても最高値の更新に沸く米株式市場。トランプ相場と言われて久しいですが、株高を支えているのは好調な米経済であり、けん引役は個人消費です。

米国人は日本人と違い浪費癖があり、旺盛な消費意欲の背景には資産効果があるとの指摘はよく耳にします。しかし、実際のところ米家計は苦しい生活を強いられているようにも見えます。

米国民が消費好きなのは国民性なのかどうか、実際のデータから探ってみましょう。

米国の個人消費の対GDP比率は医療費を除くと日本より低い

個人消費の対GDP比率は米国の約7割に対し日本は約6割となり、この違いをもって米国は日本よりも個人消費が活発であり、消費意欲が旺盛との見方があります。

しかし、こうした見方は誤解に過ぎないのかもしれません。

まず数字を確認すると、総務省がまとめている「世界の統計(2016年版)」では、個人消費の対GDP比率は米国が68%、日本が61%となっていますので、数字自体は正しいといえます。

ところが、国連がまとめた家計消費支出の内訳を見ると、米国では医療費が個人消費に占める割合が21.1%であるのに対し、日本はわずか4.6%に過ぎません。医療費を除いてしまうと、個人消費の対GDP比率は日米で逆転します。

2016年の米個人消費支出(PCE)は前年比3.8%増加していますが、項目別では医療費の5.5%増に対し、食料品は1.8%増、衣料品は1.0%増にとどまっています。これらの数字は米国民が医療費の高騰により生活費を切り詰めていることを示唆しています。

個人消費の対GDP比率が高いことで、“アメリカでは消費は文化”と揶揄する声や“過剰消費体質”を批判する声も聞かれます。

しかし、実際のところ消費を押し上げているのは医療費の高騰であり、米家計は消費を楽しむどころではありません。医療費が安いおかげでつい浪費してしまうのはむしろ日本なのかもしれません。

対GDP比率が高いければ個人消費が活発なわけではない

個人消費の対GDP比率で消費の活発度が計れるのかどうかにも疑問があります。

前出の「世界の統計」中、個人消費の対GDP比率の高い国を挙げると、トップがエジプトで83%、これにフィリピンの72%、ギリシャの70%が続きます。これらの国は米国よりも比率が高いわけですが、個人消費が活発なわけではありません。

これらの国に共通して言えることは、産業が育っていないということです。エジプトは国土の約90%が砂漠であり、収入の大半をスエズ運河の通航料と観光に依存しています。ギリシャも観光が主な収入源ですし、フィリピンは貯蓄率が低く、投資不足で産業の発達が遅れていることが問題視されています。

一方、中国は38%、シンガポールは37%と低い数字となっていますが、これらの国で個人消費が低迷しているわけでもありません。中国ではインフラ投資(44%)、シンガポールでは輸出(24%)がそれそれGDPに占める割合が大きいので、相対的に個人消費の占める割合が小さくなっています。

日米で株式への投資比率の差は実質10%未満

米国では株式への投資比率が高く、所得効果が個人消費を押し上げているとの見方もありますが、こちらも怪しいところがあります。

日銀の調べによると、家計の金融資産に占める株式の割合は日本の10.6%に対し米国は34.3%となっており、一見すると米国の家計は圧倒的にリスクを取っているように思えますが、この差のほとんどが統計上の定義の違いによるものです。

日本の定義に合わせると、米家計の株式保有比率は18%程度とほぼ半減します。依然として日本の家計よりもリスクを取っているとは言えますが、その差は10%未満となり、調整前の数字とは大きく異なります。

また、米国での株式の所有は一部の富裕層に限られていること、さらに退職年金口座での運用比率も高いことから、所得効果もそれほど大きいわけではなさそうです。

一方、総資産に占める不動産比率を見ると、日本は63%と米国の46%を大きく上回っています。しかも、ローン比率が米国の約7割に対して日本は約9割と高く、さらに日本の中古住宅市場での流動性は米国に比べて著しく低くなっています。

金融資産以外の資産や負債を考慮に入れると、日本の家計のリスク許容度が米国に比べて必ずしも低いと言えるわけではなさそうです。

日米の比較、統計上の定義の違いなどにも配慮を

個人消費の対GDP比率が高いことは、必ずしも旺盛な消費意欲を示しているわけではありません。

米個人消費の数字は堅調ですが、けん引しているのは高額な医療費であり、家計はむしろ生活費を切り詰めている様子が伺えます。

米家計は株式の保有比率が高く、所得効果が大きいことが消費を押し上げているとの指摘もありますが、統計上の定義をよく調べると、日米でそれほど大きな違いはなさそうです。

日本は米国に比べて株式への投資比率が著しく低いわけではなく、住宅ローンや住宅の転売のしやすさなども考慮に入れると、リスクテイク能力が低いわけでもありません。

日米を比較すること自体は有意義ですが、統計上の定義の違いなどをしっかりと考慮しないと大きな勘違いをしている恐れがありますので気をつけましょう。

 

LIMO編集部