2021年中国株式の振り返り

  • MSCIチャイナは年初来騰落率でMSCI ACワールドに約38%*の大幅な遅れをとる
  • 中国株式が世界株式に比べて低パフォーマンスとなったのは、主として一般消費財、通信、金融、情報技術関連の株式の不振によるものである
  • 中国株式の不振の大半は、インターネット規制に起因している可能性がある
  • 中国株式は現在、バリュエーション面で極めて妙味がある。特に、「規制の嵐」は多少なりともピークを過ぎたと考える人々にとり、中国株式のバリュエーションを魅力的に捉えることができよう。

※2021年12月17日時点、図表2を参照

2021年は、中国株にとって良好な年であったとは言い難い。

MSCIチャイナは、年初来騰落率でMSCI ACワールドに約38%という大きな差をつけられている。この要因としては、最近の中国政府による規制強化が主因だと指摘されている。

しかし、これらの新たな規制は実際、中国株式にどれ程のマイナスの影響を与えたのであろうか。この疑問に答えるため、当社は資産運用業界で最も身近なツールであるパフォーマンス寄与度分析を行った。

中国株式と世界株式の比較

MSCIチャイナは、世界の株式の標準的なベンチマークであるMSCI ACワールドに年初来で、じつに38.3%も引き離されている(MSCIチャイナの年初来騰落率はマイナス22.5%、 対してMSCI ACワールドはプラス15.8%、図表2を参照)。

中国株式が振るわない理由はいくつかある。多くの人がまず思い浮かべるのは、政府の「規制強化」ではないだろうか。

図表1は、過去2年間に施行された主な規制を示したものである。これ以外の要因としては、新型コロナウイルスや供給制約などが挙げられる。

一方、以下のような疑問が生じるかもしれない。「こうした要因が、どの程度影響を及ぼしたのか? 」

これを体系的に定量化するため、資産運用会社が本来、ポートフォリオとベンチマークのパフォーマンスの差異の要因を特定するために用いている、パフォーマンス寄与度分析のフレームワークを当社は活用した。こうして、MSCIチャイナとMSCI ACワールドを比較した。

中国株式のパフォーマンス低下の要因

一般的に、パフォーマンス寄与度分析ではリターンの差異を次の2つ、「アロケーション」と「個別銘柄」に分解する。図表2でのアロケーション効果とは、リターンの差が2つの指数のセクターウェイトの差にどの程度起因しているかを測定したものである。

今回の比較結果では、アロケーション効果の合計は(マイナス38.3%の差異のうち)わずかマイナス3.0%に過ぎない。このため、2つの指数のパフォーマンスのかい離について、両指数でのセクターミックスが異なるという観点では説明力が殆ど有効ではない。

図表2での個別銘柄効果とは、2つの指数の各「セクター内」におけるパフォーマンスの差異が、MSCIチャイナの対MSCI ACワールドでのアンダーパフォームにどの程度寄与したかを測定したものである。今回の比較では、この効果がより有効である。

この観点で、影響力を及ぼしたセクターは、度合いの高い順に一般消費財、通信、金融、情報技術などとなる。一般消費財での個別銘柄の効果は約マイナス17%で、これにより年初来のMSCIチャイナの低パフォーマンスのおよそ半分が説明可能になる。

中国の一般消費財セクターが特に不冴えであった理由は、最近の規制対象となっている、最大手の電子商取引プラットフォームや教育関連サービスなどが同セクターに含まれているからである。同様に、通信も大手インターネット・メディア企業数社の影響を多分に受けている。

一方、情報技術セクターは、規制ではなく世界的な半導体不足に伴い2021年は不調に終わったスマートフォン・メーカーが主因で、アンダーパフォームした。また、新型コロナウイルスによる保険事業の低迷が、金融セクターの相対的なパフォーマンスの足かせとなった。

その他、2つの興味深い点が見られる。まず、エネルギー、素材、公益事業、資本財に代表される従来型セクターのパフォーマンスは、世界の他の地域とほぼ同水準であることに注目したい。

第二に、不動産セクターも規制強化の影響を受けているが、MSCIチャイナに占める不動産セクターの割合は約4%に過ぎないため、株式市場全体への影響は軽微にとどまっている。

規制の短期的なコスト

個別銘柄レベルでの寄与度を集計することで、新たな規制が中国株式の相対的なパフォーマンスに与える影響をある程度推定できよう。

中国株式の不振の原因の大半はインターネット関連への規制であり、また教育関連サービスや不動産への規制の影響も受けている(図表3)。

なお、これらの情報はあくまでも一次的なものであり、米国や欧州の量的緩和政策の影響など、他の要因を織り交ぜることで、さらなる修正が必要になる可能性には留意が必要だ。

しかし、明確なことが1つある。中国株式は現在、バリュエーション面で極めて妙味がある。特に、「規制の嵐」は多少なりともピークを過ぎたと考える人々にとり、中国株式のバリュエーションを魅力的に捉えることができよう。