2017年の春の労使交渉では、長時間労働の問題などもテーマに

2017年2月2日、連合の神津里季生会長と経団連の榊原定征会長が、東京都千代田区の経団連会館で会談を行い、2017年春の労使交渉が事実上始まりました。

労使交渉とは、労働者と使用者(雇用主)の間で行われる交渉です。各企業などの労働組合が、全国中央組織の労働団体や産業別組織の指導・調整のもとに、毎年春に賃金引き上げなど中心とする要求を各企業などに提出し、団体交渉を行います。「春闘」とも呼ばれます。

労使交渉では、ベースアップ(ベア:基本給など賃金の一律引き上げ)、定期昇給(定昇:社員の年齢や勤続年数に応じた賃金の引き上げ)などが要求の中心になります。人手不足や長時間労働の是正なども労使交渉で議題に上がります。

最近では、過重労働が社会問題化しています。36(さぶろく)協定は労使間で合意すれば無制限の残業が許されますが、労組側は上限規制などを要求しています。政府は「働き方改革実現会議」で長時間労働の是正を目指しています。対象は原則として全業種です。

「官製春闘」4年目。「同一労働同一賃金」などの要請も

最近の日本の労使交渉の特色は、政府が経営側にさまざまな要請を行っていることです。「官製春闘」とも呼ばれますが、アベノミクスを推進するのが狙いです。要請に応え、経済界はこれまで3年連続賃上げを行っています。

さらに、安倍晋三首相が働き方改革の目玉と位置づけるのが「同一労働同一賃金」です。「同一労働同一賃金」とは、その名のとおり、同じ仕事をしているなら、正規社員と非正規社員の違いがあっても、同じ待遇にするということです。連合など労働組合側も、正規社員と非正規社員の処遇差の改善を求めています。

政府が同一労働同一賃金の実現を目指す狙いは、賃上げと同様にアベノミクスの実現です。一般に、非正規社員の賃金は正規社員より少ないので、これを増やせば個人消費が伸びることが期待できます。月給だけでなく賞与(ボーナス)も同一なら、格差をさらに縮めることができます。

欧米、特に欧州連合(EU)では、同一労働同一賃金が進んでいます。パートタイム労働者とフルタイム労働者などの比較において、「職務内容が同一または同等の労働者に対し同一の賃金を支払う」ことが原則的に義務付けられており、違反すると罰則もあります。同一の賃金でない場合、「なぜ同一でないのか」という客観的な理由を示さなければならないことになっています。

日本で同一労働同一賃金を導入する場合の課題は

では、日本で同一労働同一賃金は普及するでしょうか。いくつかの課題があります。まず、労働協定です。欧州では、企業別の協定も存在しますが、産業ごとの職能(グレード)に応じた賃金率が正規社員、非正規社員を問わず、共通に適用されることがほとんどです。日本では、産業横断的に適用されるグレード職務給のようなものがありません。

次に採用や解雇についてです。欧米での採用は、空きポストができたときに、個々に契約を結んで行われます。一方で、需要や生産の変動に応じた解雇も頻繁です。ただし、米国などでは、解雇のルールや補償の内容などが法律で厳しく定められています。

一方、日本企業では、大卒の新卒社員を正規社員として一定数採用し、時間をかけて育成していくというのが一般的です。そのような採用・育成方針の場合、「将来の幹部候補生である社員は、キャリアコースの一環として、店舗に2年間勤務する」という企業もあるでしょう。ただし、同一労働同一賃金という観点では、この社員が勤務先の非正規社員の先輩より高給なのは、おかしいという議論になります。

このほか、同一労働同一賃金を導入すると人件費が増加すると懸念する声もあります。さらに、「正規社員、非正規社員の仕事が完全に分けられてしまい、ますます格差が広がる」と危惧する人もいます。

2016年12月には、「同一労働同一賃金」のガイドライン(指針)案も公表されました。前述したキャリアコースの問題のほか、正社員と非正社員との間の賃金差について、何が合理的なで何が不合理かを具体的な事例で示しています。さらに議論が進み、労使ともに納得のいく同一労働同一賃金制度が実現してほしいところです。

 

下原 一晃