トランプ政権が正式発足、早くもトランプ砲が炸裂

1月20日にトランプ新政権が正式発足してからまだ1週間も経っていませんが、早くもトランプ砲が炸裂しているような印象があります。就任式の当日にTPP離脱、NAFTA再交渉、オバマケア見直しなどを表明しましたが、早速、週明けに大統領令へ署名しました。

日本が関係するところでは、2016年2月の全体署名に漕ぎ付けたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に関して、米国が完全離脱することになりました。米国抜きのTPPはほとんど意味がないと見られるため、あの激しいTPP交渉はいったい何だったのかということになります。

ただ、トランプ大統領は選挙期間中からTPP離脱を強く主張していたため、日本の経済界にとって想定の範囲内と言えるのではないでしょうか。

しかし、想定外だったのは、トランプ大統領が日米貿易不均衡を非難し始めたことです。

実は、選挙期間中、トランプ大統領は日米貿易に関してはほとんど言及していませんでした。日本に関して“攻撃”対象となっていたのは、主に沖縄を始めとする在日米軍の費用負担だったのです。

2017年に入ってから日米貿易不均衡を問題視する兆候が出ていた

雲行きが怪しくなったのは、2017年に入ってからです。まず、年明け早々にトヨタ自動車(7203)のメキシコ新工場が“ツイッター攻撃”の標的となりました。

そして、就任前の1月11日に開かれた初めての記者会見で、中国やメキシコと並べる形で日本との貿易不均衡に初めて言及したのです。

しかし、この時は、大きな標的が中国やメキシコであり、日本について言及したのは“おまけ”という印象もありました。そのため、日本の経済界やメディアもさほど深刻に考えていなかったと推測されます。

投信1では、この記者会見が行われる前日、「日本の自動車メーカーがメキシコ問題より恐れる悪夢の再来とは?」において、トヨタの今後の対応に注目するとともに、過去の日米自動車協議に代表される貿易摩擦の蒸し返しをリスク要因として挙げました。

そして、今週に入ってから、本当は起きてほしくない日米貿易摩擦について、トランプ大統領が具体的に自動車産業を例に出して堂々と批判したのです。

トランプ大統領の発言は明らかな的外れ、批判される理由はない

トランプ大統領が言及した内容をザックリ言うと、“日本が、日本市場で米国車を売ることを困難にしているのなら不公平だ”ということです。

さらに、“日本は見たこともないような巨大な船で日本車を何十万台も米国に輸出しており、不公平だ”という主旨の発言もしています。テレビのニュースで見た人も多いのではないでしょうか。

しかし、今回のトランプ大統領が言及した批判は、ハッキリ言って“難癖”に近いものがあり、明らかに的外れな指摘です。

輸入関税(日本は輸入車に対して非関税、一方の米国は輸入乗用車に2.5%の関税)、日本車の米国現地生産による雇用増大(日本車の米国生産は400万台超、米国車メーカー以外では断トツの1位)、米国消費者からの高い評価など、全てを勘案すると、日本車が批判される理由はまったく見当たりません。

批判の背景には、日本における米国車の市場シェアがわずか0.1%と、同じ米国における日本車のシェア38.0%と比べ極端な差があることが挙げられます。しかし、これは消費者が決定する問題であり、政府が介入する事案ではないでしょう。

日本の正論は、多分ほとんど理解してもらえない

しかし、トランプ大統領のこれまでの言動を考えると、こうした正当な主張を100%理解してもらえるとは、残念ながら到底思えません。

実際に、自動車の貿易問題だけを見ても、過去に何度も深刻な摩擦問題が起きています。トランプ大統領が自ら問題視したのか、それとも、取り巻きの経済閣僚や業界団体の入れ知恵なのか分かりませんが、日米貿易摩擦の再燃は今後の大きな懸念材料です。

とにかく、正論が通じない相手であることを改めて認識するべきでしょう。

米国車メーカーからはドル高是正の要求も出始めた

ただ、“救い”と言っていいかどうか分かりませんが、トランプ大統領は必ずしも日本車だけを目の敵にしているわけではなさそうです。今回、米国車メーカー3社に対して米国内に新工場建設を要求しました。これは、かなりの“無理難題”です。雇用増大のためには、日本車も米国車も関係ないということなのでしょうか。

そして、この会談で米国車メーカーからはドル高是正(=円安是正)の要求があったと報じられています。日本車メーカーのみならず、多くの業界が最も恐れる「円高」の足音が徐々に聞こえ始めたと思った人も多いかもしれません。

 

LIMO編集部