セブン-イレブン向け新型コーヒーマシンで株式市場の注目を集める
重電メーカー大手の富士電機(6504)の株価が堅調です。2017年1月20日の終値は前日比4.4%高と4日続伸で引けており、年初来高値というだけではなく10年来の高値を更新する水準にまで買われています。
20日の株価上昇だけに限れば、同日付の日本経済新聞がセブン&アイ・ホールディングス(3382)傘下のセブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン)が「いれたてコーヒーのマシンを刷新すること」や「新型マシンが富士電機製」であることを報じていたため、そのニュースが株価上昇の一因であったと推察できます。
なお、セブンは2013年1月から“いれたてコーヒー「セブンカフェ」”を発売していますが、当初から富士電機のコーヒーマシンを採用していました。そのため、新型機でも採用が決まったことには大きなサプライズはないものの、セブンとは良好な関係が続いていると読み取れることから、ポジティブニュースと受け止めた市場の反応に対して大きな違和感はありません。
なぜ、富士電機はコーヒーマシンを作っているのか?
ところで、皆さんは富士電機というとどのような会社のイメージをお持ちでしょうか。
同社は、電力機器(火力・地熱発電システム、送配電設備等)やパワエレ機器などの環境・エネルギー関連事業を主力とする重電メーカーだということを、ベテランの個人投資家や電機業界にお勤めの方であれば誰でもご存じだと思います。
しかし、そうでない方には、冷蔵庫やテレビなどの家電製品を扱っていないために、同じ重電メーカーでも三菱電機(6503)や日立製作所(6501)に比べると“あまり馴染みがない”とお感じの方が多いのではないかと思われます。
そのような方には、ぜひセブンに置かれているコーヒーマシンが同社の製品であり、今はない家電の血筋を引いた製品であることを知っていただければと思います。
同社は戦前から続く老舗企業ですが、その歴史を紐解くと、戦後の一時期に扇風機、洗濯機、ジューサーなどの家電分野にも進出した時期があったことがわかります。しかし、その多くは短命に終わり、唯一、消費者に近い分野として生き残ったのが、コーヒーメーカーが含まれる自販機事業です。
ちなみに、現在の富士電機の自販機事業は国内トップシェアを確保しています。また、自販機が含まれる「食品流通事業」は、全社の売上高の約14%、営業利益の約18%を稼ぐ重要なセグメントとなっています(2016年3月期実績)。
Longineのレポートで富士電機の自販機事業を深掘り
筆者は、2013年に同社の自販機の主力工場である三重工場に訪問する機会を得て、その内容を個人投資家向け金融経済メディアLongine(ロンジン)のレポート『【富士電機(6504)の三重工場(自販機)訪問取材から見えてきたこと】』(無料)にまとめました。
このレポートを参考に、もう少し同社の自販機事業について理解を深めてみましょう。
まず、セブンに採用されているコーヒーマシンには、ドライブインなどに設置されているドリップ式挽きたてコーヒー自販機で培われた「おいしいコーヒー」を作る技術が生かされています。つまり、セブン向けコーヒーマシンは長い歴史に裏打ちされているのです。
また、三重工場には需要変動に対応できる柔軟性の高い生産体制が構築されていました。おそらく、その後3年間の量産実績により、生産面での習熟度はさらに高まっていることでしょう。そのため、今後、新型機への入れ替えに伴い需要が急増したとしても、それに十分に対応することが可能ではないかと考えられます。
さらに興味深いことに、2013年時点で中国やタイを中心とする海外展開についても布石が打たれていることを、このレポートで触れています。実際、足元ではとりわけ中国での展開が一段と加速しています。今後の自販機事業については、国内動向だけではなく、海外展開についても注目していくことが重要になると考えられます。
まとめ
いかがでしたか。同社のように多くの事業を展開している複合企業の場合、一事業だけからは全体を理解することはできませんが、自販機やコーヒーマシンの成り立ちを知ることで、あまり馴染みのない富士電機という会社が少し身近なものに変わったのではないでしょうか。
なお、これを機会に富士電機全体について、もう少し詳しく知りたいと思われた方は、Longineの同社に関するレポートや、同社が発行するアニュアルレポート「富士電機レポート2016」などを参考にしてみてください。
富士電機の過去10年間の株価推移
和泉 美治