ダボス会議がスタート

毎年1月にスイスのリゾート地で開催されるダボス会議(World Economic Forum Annual Meeting 2017)が、今年も開催されます。例年は1月下旬の水曜日から土曜日までの4日間に行われますが、今年はトランプ大統領の就任式と重なることを避けるために、火曜日から金曜日の開催となっています。

約40年の歴史を持つダボス会議といえば、世界の政財界トップが集まる国際会議として有名で、そこに招待されることは一種のステータスシンボルでした。日本でもソニー元社長の出井伸之氏や、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏も参加していました。

一方、ダボス会議は、カネ、モノ、ヒトは国境を越えて自由に移動すべきだというグローバリゼーションを肯定的に捉える政治家や資産家が集まる傾向が強いことから、過去には反グローバル主義者による激しいデモが周辺で行われたこともあります。

トランプ氏は側近を1名だけ派遣

今年は中国の習近平国家主席が中国の国家主席として初めて参加し、会議開幕の17日に基調講演を行いました。また、ブレグジットで注目を集めている英国のメイ首相が講演する予定です。

一方、これまで常連であったドイツのメルケル首相は2年連続で不参加、アメリカからはオバマ政権の最後の参加として、民主党所属のバイデン副大統領やケリー国務長官が出席する予定です。トランプ陣営はどうかというと、政権以降チームからスカラムッチ氏だけが参加するとのことです。

ちなみに、2017年1月14日付けのブルームバーグニュースは、「トランプ氏を当選に導いたのは権力層に対するポピュリズム的怒りであり、ダボス会議に集まる資産家や政治指導者はそうした層を代表している。代表を送れば、自身のこれまでの活動を裏切ることになるとトランプ氏は考えた」という匿名のトランプ氏政権移行チーム幹部のコメントを報じています。

せっかく就任式に配慮して日程を変更したのにトランプ陣営からの出席者が少ないのは、単に就任式前で忙しいだけではなく、どうやらトランプ陣営がダボス会議に対してあまり乗り気ではないらしいことが読み取れます。

トランプ政権は二枚舌?

とはいえ、この政権以降チームから唯一派遣されるスカラムッチ氏の人物像をよく調べると、別の見方も浮かびあがってきます。

同氏は大学を卒業後、ゴールドマン・サックス社に勤務し、その後ヘッジファンドを創業しています。また、トランプ氏の長女、イバンカさんの夫で上級顧問としてホワイトハウス入りするクシュナー氏と親密な友人でもあるとのことです。

この経歴はどう見てもエリートであり、ダボス会議にぴったりと当てはまる人物であると言えます。片や「反エリート・反エスタブリッシュメント」を掲げる一方で、スカラムッチ氏以外にも多くの資産家やエリートが政権の中枢を占めているトランプ政権。今回のダボス会議への「消極的な参加」にも、トランプ新政権の矛盾や二枚舌が現れています。

今年はどんなテーマが議論されるのか

さて、肝心の会議のテーマですが、今年は「迅速な責任あるリーダーシップ」がメインテーマとされており、環境問題、移民問題、自由貿易などの複雑な政治・社会課題に対して、リーダーはどのように対処していくべきかが議論の中心となります。

ちなみに、昨年の主要テーマは「第4次産業革命」であり、人工知能、女性活躍、雇用問題、感染症対策なども議題されています。そこで取り上げられたテーマはいずれも、その後の株式市場でも重要なテーマとなったため、今年もその内容には注目していきたいと思います。

ただし、ダボス会議のコンセンサスは世界の動きからは外れてきている可能性があることには注意が必要です。昨年のダボス会議では、ブレグジットやトランプ大統領誕生の可能性はほとんど考慮されず、その底流にある「グローバル化による格差の問題」がコンセンサスとして大きく取り上げられることがなかったからです。

中国の習国家主席は、基調講演で保護主義への反対を強調し、トランプ新大統領をけん制する姿勢を見せました。これは今年のダボスのコンセンサスになるでしょうか。いずれにしても、昨年と同様、現実はダボスのコンセンサスとは逆の方向に向かう可能性もあることには注意が必要と言えるでしょう。

いずれにせよ、リーダーシップのありかたをメインテーマとする2017年のダボス会議は、リーダー不在で不確実性が高まる世界の現実を印象付ける結果になる、そんな予感がします。

 

和泉 美治