この記事の読みどころ
2016年に経済界で起きた予想外の出来事(イベント)として思い起こされるのは、米国大統領選挙と英国の欧州連合(EU)離脱でしょう。これらのイベントの背景の1つとして取り上げられるのはポピュリズムで、この勢いは2017年も続きそうです。今回はポピュリズムに関連した政治と経済の注目点を述べます。
2017年を占う:懸念の筆頭は政治のポピュリズムの拡大
金融ベンダーのブルームバーグ社が2016年12月21日に報道した記事で、投資適格債券を投資対象とする投資家68人が今後1年間で最も懸念するイベントは何かという米国の大手金融機関が12月に行った調査の結果が伝えられています。
内容を見ると、全体の3割程度が一番に懸念するイベントとして選んだのは政治のポピュリズム(大衆迎合主義)でした。10月にも行われた同調査ではポピュリズムに懸念を示したのは1割に満たなかったことから、米国大統領選挙の結果が投資家の懸念に大きな影響を与えたことがうかがえます。
どこに注目すべきか:2017年欧州選挙、ポピュリズム、財政政策
2016年の予想外の出来事と言われる米国大統領選挙や英国の欧州連合(EU)離脱、その原動力がポピュリズムと見られることから、2017年に想定されるポピュリズムに関連した政治と経済の注目点を述べていきます。
最初に、ポピュリズムの意味を確認します。ポピュリズムの意味、もしくは定義は様々ですが、多くは大衆迎合主義などと説明され、人々の利益や願望、不安などを利用して、大衆の支持を取り付け、既存の体制や知識人などと対決しようとする政治思想、または政治姿勢といった意味で使われています。
ポピュリズムの問題の1つは、人気を高めるために極端な単純化により敵と味方に区分したり、時には誤った情報を使う傾向が見られることです。たとえば、財政拡大と、その財源となる税金を拡大するどころか減らすという政策を、根拠があるなら別ですが、根拠もなく公約するなどの政治姿勢があげられます。移民や難民を敵とするのも、ポピュリズム的な性格と思われます。
次に、2017年に政治分野でポピュリズムが懸念される地域としては欧州があげられます。欧州で反移民、反ユーロ、反EUなどを掲げる政党が台頭する可能性があるからです(図表1参照)。ただ、世論調査によると、フランスの極右やドイツのユーロ懐疑派は勢力拡大は十分考えられますが、政権を獲得する可能性は今のところ高くないと見られます。
ただ気になるのはオランダで、反EUを掲げる野党の自由党が第1党になる勢いです。連立与党の自由民主国民党と労働党の合計議席を上回る可能性があるからです。オランダ選挙は3月実施予定と、フランスやドイツの選挙に先行するだけに結果が思わぬ方向に波及する点には注意が必要かもしれません。
もう1つ気になるのはイタリア総選挙です。イタリアは銀行の債務問題などEUと協力して解決を目指す課題が山積みの中、反EUを掲げる政党が選挙で勢力を伸ばす可能性があるからです。イタリアの総選挙の時期は不透明ですが、2017年に前倒しで行われるとの観測もあります。
イタリアを例にすれと、ポピュリズムが「リスク」と見なされるのは、反ユーロや反EUという個人の考え方は尊重されるべきとしても、現実に直面しているイタリアの銀行問題の解決にはEUの協力が必要な状況です。問題なのは、EUとの協力関係による解決の代替策が不透明なまま、感情が先行しているように思われる点です。
次に、経済におけるポピュリズムのリスクを米連邦準備制度理事会(FRB)イエレン議長の最近の発言を例にとります。12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、イエレン議長は雇用市場が完全雇用に近い状態なら財政刺激策は不要との見解を示し、財政政策では生産性と経済の長期的パフォーマンスの押し上げに重点を置くことが重要と強調しています。
イエレン議長の発言のポイントは2つあります。1つ目は、イエレン議長は財政政策をすべて否定しているわけではありません。生産性や長期経済成長率を押し上げる政策を支持しています。逆に言えば、穴を掘ってまた埋めるような政策は支持できないという点です。
2つ目は、2017年のテーマとなりそうなポイントですが、失業率が足元4.7%とほぼフル雇用と見られる中で財政政策がどこまで必要かです。フル雇用で財政政策を実施した場合、悪い金利、悪いインフレ率の上昇が懸念されます。この場合、金融政策は引き締められ、実質ベースでは結局悪化する懸念も考えられます。
このように、経済におけるポピュリズムの欠点は、よくよく考えてみればマイナス効果が懸念されるような話であっても、減税など耳当たりの良い政策がついつい選好されてしまうことで、結局はコストの高い政策となってしまうことが懸念されます。ポピュリズムは2017年も引き続き懸念材料として注目しています。