現預金を賃上げや設備投資に使わせるのは困難

現預金に課税をしても、企業が現預金を賃上げに使う可能性は低いでしょう。現預金を使って賃金を100円上げれば利益が100円減りますが、それによって現預金が100円減っても納税額は数円しか減らないからです。

上記のように最近の企業は安易には賃上げをせず、株主への配当等を優先しているわけで、現預金への課税が賃上げを誘発するとは考えにくいと思います。

労働力不足で賃上げをしないと労働力が確保できないとか、インフレで労働者の生活が苦しいから賃上げを要請されたといった場合には、賃上げがやむを得ない選択肢として浮上するのでしょうが、その場合には現預金に課税してもしなくても、賃上げが実施されることになるわけで、現預金課税の効果とは言えませんね。

設備投資の方は、まだ可能性があるかもしれません。現預金を使って期待利益率がマイナス1%の設備投資を100万円実施すれば、利益は1万円減りますが、それによって現預金が減り、納税額が数万円減るかもしれないからです。

しかし、上記のように借入金を返済したり長期国債を保有したりすることで現預金が容易に減らせるのであれば、わざわざ期待利益率がマイナスの設備投資を実施する企業があるとも思われません。

ちなみに、期待値マイナスの投資と記しましたが、儲かる確率の方が少しだけ高いけれども経営者が臆病(慎重?)なので、失敗した時のリスクを嫌って投資しないといった案件を含みます。

現預金課税によって皆が一斉に現預金を用いて設備投資をするようになり、それが景気を押し上げて企業経営者の投資マインドを強気に転換させてくれれば良いのでしょうが、なかなかそこまで設備投資が盛り上がることは期待できそうにありませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義