2016年の半導体株は日米ともに好調だった

2016年の株式市場では、半導体関連株の高パフォーマンスが目立ちました。米国の主要半導体メーカーで構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の年間騰落率は+37%の上昇となり、S&P500種株価指数の+10%を大きくアウトパフォームしています。

また、米国市場だけではなく、日本でも半導体ウエハーの信越化学工業(4063)、半導体テスターのアドバンテスト(6857)、半導体製造装置の東京エレクトロン(8035)などが健闘しました。

東芝の株価も、12月27日に米原子力関連事業の大幅なのれん減損の可能性が発表され急落するまでは、半導体事業の好調が注目され大幅な上昇となっていました。

ボラティリティが高い半導体株

ただし、半導体市場は長期的には成長が続く可能性が高いものの、短期的な業績は良くも悪くもボラティリティが高いこと(株価が大きく上下変動する)には注意が必要です。

その理由としては、業績が数量の変動だけではなく価格の変動にも影響を受けること、また、半導体はパソコン、スマホなどの部品、つまり中間財であるために、最終製品の需要動向だけではなくセットメーカーによる部品の在庫調整の影響も受けることなどが挙げられます。

マイクロンの場合は

そのことを示す一例として、12月21日に発表された米マイクロン・テクノロジーの2017年8月期第1四半期(9-11月期)決算の内容を見てみたいと思います。同社は、パソコンやスマホなどに使われるメモリー半導体の専業メーカーで、売上構成比の約6割がDRAM、残りがフラッシュメモリーとなっています。

実績:DRAM、フラッシュメモリーともに数量が増加し、DRAMについては価格も上昇。さらに、コストダウンも進展して売上高は前四半期比で+23%増となり、純利益も過去3四半期連続の赤字から一転して黒字転換となっています。

見通し:次の第2四半期(12月-2月期)については、売上高・利益ともに前四半期比で増加する見通しを発表しています。また、2017年の業界動向に関しては、DRAM、NANDともに供給数量の伸び率は長期的な需要の伸び率を下回るとしています。

個別には、DRAMについては新規投資による大幅な能力増はない、NANDについては3D NANDと呼ばれる新技術への移行の影響を受けるとコメントしています。つまり、2017年も足元の市場動向と同様に、供給不足が続く可能性を示唆していました。

ちなみに、こうした決算内容を受けて、翌日(12月22日)の株価は前日比+13%と大きく上昇しました。また、直近の株価は、前回のサイクルピーク時にあたる2014年の高値に対してはまだ4割程度下回っているものの、2016年5月の最安値から、すでに約2倍に上昇しています。

ただし、ここで注意したいのは、わずか半年前の6月30日に同社はパソコン向けDRAMの長期低迷による業績悪化に対応するため、全世界で約8%の従業員削減を含むリストラ策を発表していたことです。

リストラは、ここまでDRAM市況が回復するとは予測できなかったために行われた苦肉の策でしたが、結果的には、予想に反して市況は回復に転じ、業績も大きく上向きだしています。

わすか半年という期間で猫の目のように市況も業績も大きく変化する、これが半導体市場の現実であり、また、こうしたことは過去に何度も繰り返されてきました。

2017年は何に注意すべきか

2017年に気を付けたいのは、以下に述べる供給サイド、需要サイドそれぞれのリスクです。

まず、供給サイドでは2017年も供給不足が続くという見方が増えていますが、想定以上に歩留り(生産性)が改善してしまう、シェア拡大のために増産を前倒しで行うメーカーが現れてしまうなどのリスクに注意したいと思います。

また、品不足状態が続くと、国策として半導体事業を強化しようとしている中国勢の投資意欲をさらに掻き立ててしまう可能性にも注意したいと思います。

需要サイドについては、スマホ市場の減速が気になるところです。

2016年12月31日付け日本経済新聞は、半導体の大口需要家の1社である米アップルが「iPhoneを2017年1~3月期に前年同期比1割程度、減産する」と報じており、この影響が長期化しないか、また、アップルの不振を他でカバーできるのかなどを注視したいと思います。

このように、半導体メーカーですら需要や供給を正確に予測することが難しいのが半導体業界です。そのため、半導体関連株の業績や株価を正確に見通すことは容易ではありません。

とはいえ、上で述べたマイクロンの2016年の株価の動きからわかるように、基本的には、「業績が悪化した時には悲観的になり過ぎず、好転した時には楽観的になり過ぎず」という逆張りの投資戦略のほうが有効だと考えられます。これからも、上記のリスクについてしっかりと精査していきたいと思います。

和泉 美治