この記事の読みどころ

  •  本来、地方大会の1つである箱根駅伝は、今や事実上の大学日本一決定戦となっています。
  •  毎年28%前後の視聴率を上げる箱根駅伝は、既に視聴率No.1のスポーツ番組です。
  •  一方、駅伝の人気向上と反比例して、日本の男子マラソンの低迷が深刻になっています。何か関係があるのでしょうか。

多くの日本人はマラソンが好き、五輪でのテレビ視聴率も高い

近年、日本ではランニング人気が高まっているようですが、筆者を含めて多くの日本人は、昔からマラソンなど長距離走が大好きなのではないでしょうか。しかも、自身が走るだけでなく、観ることも好きなのです。

それは、テレビの視聴率にも明確に表れています。夏季オリンピックでの競技別視聴率を見ると、男女のマラソンは常にトップ争いをしています。2016年のリオ五輪でも、男女マラソンの視聴率は上位3位以内に入りました(注:ハイライトや総集編、開会式などを除く)。

もちろん、実施時間や時差などの関係もありますが、マラソンの視聴率が高いことは間違いありません。なお、五輪マラソンの最高視聴率は、1984年ロス大会の48.8%(番組平均、以下同)となっていますが、今でも驚異的な数字と言えましょう。

箱根駅伝は超ドル箱コンテンツに成長、視聴率No.1のスポーツ番組

さて、年末年始に放映されるスポーツ番組の中で、最も視聴率が高いのが「東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝)」です。毎年1月2日と3日に日本テレビ(系列局含む)で放映されますが、概ね27~29%の視聴率を上げています。

これは五輪マラソンを上回る数字です。さすがに最近は30%を超えることはなくなりましたが、逆に、25%を下回ることもありません。しかも、約25年の長きにわたって続いているのです。テレビ離れが顕著な現在、箱根駅伝は“超”が付くドル箱コンテンツと言えましょう。

ちなみに、近年のスポーツ番組で箱根駅伝を上回る視聴率を上げていたのはサッカー日本代表戦でした。しかし、最近はサッカーの視聴率が低迷しており、箱根駅伝は視聴率No.1のスポーツ番組になったのです。

それにしても、なぜ箱根駅伝の人気はこうも高いのでしょうか?

地方大会の1つである箱根駅伝は、事実上の大学王者決定戦

箱根駅伝は、「全日本大学駅伝」「出雲駅伝」とともに学生三大駅伝大会の1つです。

しかし、出場校は関東陸上連盟の大学に限定されているため全国規模の大会ではなく、ハッキリ言うと、地方大会の1つに過ぎません。しかし、大会の『格』としては最上位であり、事実上、“箱根駅伝の勝者=真の大学王者”と見なされていると言えます。

山登りの第5区では数々のドラマが繰り広げられてきた

箱根駅伝が最上位に位置付けられている理由の1つが、その走行距離の長さと険しさです。往復で約217kmは、全日本(約107km)や出雲(約45km)を大きく上回ります。

そして、テレビ視聴者を釘付けにするクライマックスが、過酷な箱根の山登りである「第5区」でしょう。過去、第5区では途中棄権を含む数々の壮絶なドラマが繰り広げられ、そして、“山の神”と称された山登りスペシャリストのスター選手が何人も登場してきました。テレビ番組として、商業的な成功を導く多くの要素が含まれているのです。

大学側にとっても絶好の宣伝チャンス

箱根駅伝は、少子化で受験者数が減少する大学側にとっても、絶好の宣伝になります。ただ、正月の本大会に出場するためには、厳しい予選会を勝ち抜く必要があります(シード権制度あり)。

そのため、各大学は全国各地から有望選手を勧誘しており、地方大会である箱根駅伝が事実上の全国大会となっているのです。“箱根駅伝の勝者=真の大学王者”と言われる理由がここにあります。

スポンサー企業が放っておくはずがない

そして、これだけのドル箱コンテンツを、スポンサー企業が放っておくはずがありません。筆頭スポンサーで冠スポンサーでもあるサッポロビールを別とすれば、数多くの大企業が名乗りを上げて、激しい獲得競争を繰り広げています。

当然、スポンサー料は年々跳ね上がっていると推測できますが、それでも、大きな広告価値があると考えられます。大会運営の資金は潤沢と見ていいのではないでしょうか。

箱根駅伝の人気上昇と反比例する日本のマラソン低迷

一方、箱根駅伝の人気が高まるのと反比例するかのように、日本のマラソンは、特に男子において、国際大会の成績低迷が続いています。オリンピックや世界選手権での長期不振はご存知の通りで、2020年の東京大会も残念ながら期待は大きいとは言えなさそうです。

その理由の1つとして、大学や実業団(社会人)における駅伝競技への過度な注力が指摘されています。この指摘が正しいかどうかわかりませんが、確かに、駅伝とマラソンは同じ長距離走でも、ペース配分やスピード感など全く異なるものです。団体戦と個人戦の違いもあります。

実際、前述した箱根駅伝で“山の神”と称されたスター選手、及び、“花の2区”を走るエース級の選手は、その多くが卒業後にマラソンに転向していますが、結果はサッパリの状況にあります。

近年の五輪マラソンで好成績を残した選手に駅伝実績は乏しい

この20年間、五輪の男子マラソンで好成績を収めた数少ない実例を見てみると、油谷繁(アテネ五輪5位)は大学駅伝を経験しておらず、実業団入り後もすぐにマラソンへ専念しました。

また、中本健太郎(ロンドン五輪6位)は、箱根駅伝に1度出場したものの区間成績は20人中16位と振るわず、実業団入り後はすぐに駅伝競技から離れ、マラソンに専念しています。この2名だけで判断するのは即決過ぎるのでしょうか(敬称略)。

駅伝競技の商業的な成功が、日本のマラソン復活に繋がることを夢見て、2017年の箱根駅伝をテレビ観戦したいと思います。

 

LIMO編集部