2030年までに達成すべき国際目標として世界的に注視されるSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)。
SDGsは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓った包括的な目標であるが故に、あらゆる方々に関係するものです。
今回はその一つとして投資家の視点からSDGs達成の意味を考えていきます。
株価指数とSDGsの達成度合いには一定の相関がある?
ここでは一つのまとまった期間として昨年、2020年の1年間における世界全体の株式市場とSDGs達成度合いの関係性について見ていきましょう。
昨年、2020年の株式市場といえば、2020年3月のコロナショックにより底値を付けてからは、実体経済との乖離をよそに記録的な回復を見せ、世界的にバブルとも揶揄されるような株高となりました。
そのような状況下において一層注目を集めたのが、SDGs達成に紐づけられたESG投資や社会的インパクト投資と呼ばれる分野です。各国の金融緩和により余った投資マネーが流れる受け皿としても期待されています。
一方で、ESG投資や社会的インパクト投資が、投資家へ真にリターンをもたらすかについては議論が絶えないのが現状です。
ただ、SDGs達成に向けた取組みが盛んな国では、企業における社会課題解決のためのイノベーションや様々なステークホルダーに配慮した経営等が推進され、それに対して株式市場も好感を示すと考えられます。
つまり、株価指数とSDGsの達成度合いには一定の相関が認められるのではないかとの推測が成り立ちます。
株価指数とSDGs達成度合いの現実
ここからは上記の推測を一つの仮説として、各国のSDGs達成度合いをスコア化したSDG Index Scoreを用いて、各国の株価指数とSDGs達成度の関係を探っていきます。
ちなみにSDG Index Scoreとは、英ケンブリッジ大学が2016年から発行している『The Sustainable Development Report』のなかで主に世界166ヵ国を対象として算出しているスコアです。
SDGs17のゴールごとに、それがどの程度達成されたかを評価し、総合的なSDGsの達成度合いを国別に点数化しています。なお、上記のレポート表記に従い、SDG Index Scoreにおいては、“SDGs”ではなく“SDG”と記載しておりますので、予めご留意ください。
SDGs17のゴールの達成度合いの評価については、169のターゲットをベースに以下の3つの観点で閾値を設定して行います(『The Sustainable Development Report2020』「4.3 Methodology(summary)」より)。
① 絶対的なターゲットが設定されている場合、その閾値に基づき評価する
② 明確な閾値がないターゲットの場合、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という原則に基づき閾値を独自に設定し評価する
③ 2030年以降に達成すべきターゲットの場合、その年の時点で達成すべき閾値を科学的に逆算し評価する
図表1にある対象各国のSDG Index Score平均値と株価指数の騰落率に基づく相関についての結果は、図表2のとおりです。
相関係数は0.418と算出され、正の相関となりました。一方で、SDG Index Score平均値の高い国には先進国が多く含まれていることも事実です。とくに2020年は、コロナショックによる新興国通貨の下落を背景に、米ドルベースでの騰落率では、先進国の方が新興国より全体的に高くなる傾向があります。
そこで、対象を新興国44か国に絞り、集計を行った結果が図表3です。なお、ここではUnited Nations New York, 2020『World Economic Situation and Prospect』記載「Developed economies」として定義された国を先進国とし、母集団から除外しました。
相関係数は0.382と算出され、こちらについても正の相関となりました。つまり、新興国に絞って見ていっても、各国の株価の騰落率とSDGsの達成度合いは正の相関があるといえるわけです。
投資家にとってSDGs達成は「情けは人のためならず」の真意に通じる
ここまでの検証結果は、ある一つの期間における一過性のものという見方も、もちろんあるでしょう。しかしながら、SDGs達成に向けた取組みが世界中のあらゆる方々の手によるものであるのと同じく、株価の趨勢もまた世界中の投資家の方々が形づくるものです。
「情けは人のためならず」とは古くからいわれることです。これは「人に情けをかけることは、結局はその人のためにならない」と誤った解釈をされがちな表現ですが、「人に情けをかけておくと、巡り巡って結局は自分のためになる」というのが本来の意味になります。
この真意が今後より一層世界的に拡がり、SDGs達成に向けた取組みが地道に持続的になされることこそ、現在の世界全体において最も重要なことの一つといえるでしょう。
そして、その一つの結実した果実として、今回取り上げた株式市場をはじめ各市場に好ましい影響を与え、「情けは人のためならず」の真意を汲み取った投資家の方々に恩恵をもたらすことを、筆者自身もSDGs達成に向けた小さな一助となるべく取組みに大汗をかきながら期待しています。
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