読者に伝えたい3つのポイント
- ウォーレン・バフェットは、自らが経営するバークシャー・ハサウェイの時価総額を1965年以降から2015年まで年率換算で毎年+21%、株主資本を+19%増加させてきました。
- バークシャー・ハサウェイの総資産の規模が大きくなるにつれ、投資の内容も変化しつつあり、事業会社を丸ごと自社に取り込むようになってきています。
- バフェットは、米国という国レベルでいかに競争優位を継続的に確立していけるかという視点で投資をしているように見えます。
最強の投資家バフェットが率いるバークシャー
世界で最も有名な投資家といえば、米国の保険会社バークシャー・ハサウェイ(以下「バークシャー」)を経営するウォーレン・バフェットと言っても過言ではありません。バークシャーの時価総額を、1965年以降から2015年まで年率換算で毎年+21%、株主資本を+19%増加させてきた実績を考慮すれば納得のいくところでしょう。
バークシャーの総資産の規模が大きくなるにつれ、投資の内容も変化しつつあります。以前は、保険会社であるバークシャーの投資の中で上場有価証券への投資を行い、株式市場もその点に注目してきました。しかし、最近では事業会社を丸ごとバークシャーに取り込むようになってきています。
また、取り込む会社の事業が、金融事業よりインフラや製造業が多くなっているのが特徴です。今回は、バークシャーのアニュアルレポート2015のバフェットの言葉を振り返りながら、バフェットの頭の中を読み解き、今後の投資アイデアに結び付けたいと思います。
バフェットも成功ばかりではない
まず、図表1を見てください。これは、バークシャーの2015年アニュアルレポートに記載されている投資有価証券の主要銘柄の買値合計額と、その保有分に関する時価総額の合計です。
ここには、いわゆる”バフェット銘柄”とも言える有名な企業、たとえば、P&Gの略称でお馴染みの消費財メーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル、清涼飲料水メーカーのコカ・コーラ、格付け会社のムーディーズ、クレジットカード会社のアメリカン・エキスプレスといった大きな含み益がある銘柄がずらりと並んでいます。これらはバークシャーが長期で保有してきた銘柄群なのです。
一方で、バークシャーのポートフォリオにも含み損の発生している銘柄も散見されます。ICT企業のインターナショナル・ビジネス・マシーン(IBM)に関しては、バフェットも納得して買っているようですが、2015年12月末時点では含み損を抱えた状況です。加えて、建設機械・農耕機具メーカーであるディアも含み損となっています。
このように、バフェットといえども全ての投資について成功しているというわけではありません。もちろん、バフェットの投資期間は長期なので、「現時点で判断するな」と言われてしまいそうですが、直近のデータでは上記の通りです。
また、バフェットはエネルギー関連銘柄の投資があまり上手ではないように見えます。図表1にあるように、石油関連銘柄のフィリップス66は若干の含み益に過ぎません。また、先ほど指摘した消費者向け商品を扱うような銘柄とは異なり、バークシャーのポートフォリオに組み入れられるエネルギー関連の銘柄の顔ぶれは頻繁に変わります。
たとえば、2013年12月末時点でのバークシャーの投資有価証券の主要銘柄にはエクソン・モービルが含まれていましたが、2014年12月末時点での主要銘柄には顔を出していません。状況に応じてポジションを調整しているように見えます。
2015年のバフェット銘柄“Big Four(ビッグ・フォー)”のパフォーマンスは?
バフェットに見つかったら怒られそうですが、バークシャーの主要投資銘柄のうち上位5社と、S&P500の2015年の株価推移を比較してみました(図表2参照)。ここでは、2014年12月末時点の株価を100とし、2016年4月22日までの株価パフォーマンスを見ています。
ちなみに、バフェットはアメリカン・エキスプレス、コカ・コーラ、IBMとウェルズ・ファーゴの4銘柄を“Big Four(ビッグ・フォー)”と呼び、ポートフォリオの中でコア銘柄としています。
出所:SPEEDAをもとに筆者作成
さて、図表2から分かることは、2015年から現在に至るまで、コカ・コーラ以外の銘柄はS&P500に勝てていません。さらに、絶対値の株価で見ても、コカ・コーラ以外の銘柄は2014年12月末時点の株価を下回っており、決して良いパフォーマンスとは言えません。
このため、現在株式市場の一部では、バフェットの投資眼に対する疑問と後継者問題を含めた投資の継続性についての不が取り沙汰されているようです。
バフェットの興味はよりインフラ&製造業にシフトしてきているのでは?
では、バフェットは保有株式の株価パフォーマンスが冴えずに落ち込んでいるのでしょうか。筆者はそうは思いません。
バフェット銘柄が好きな個人投資家にとっては意外かもしれませんが、現在のバークシャーの総資産5,523億ドル(約60兆円)のうち、投資有価証券の比率は約20%程度です。投資有価証券よりも大きいものは事業投資で得た資産、すなわちこれまで買収してきた鉄道会社や電力会社の有形固定資産や不動産などです。
筆者は、バフェットの興味が、単純に消費関連や金融事業への有価証券投資から、インフラや製造業投資に向かっていると見ています。
これまでバフェットを有名にしてきたのは投資であり、それはこれからも変わらないでしょう。しかし、これまで以上に、投資先の領域とその企業の持つ社会的役割を重視しているようにも見えます。
バフェットは、これまでバークシャーに取り込んできた企業を“Powerhouse Five(パワーハウス・ファイブ)”と呼び、非保険事業の中で最も収益力のある5事業に注目しています。その5事業とは、鉄道会社のBNSF、電力会社であるバークシャー・ハサウェイ・エネルギー(旧ミッドアメリカン)、製造業やサービス業を中心としたコングロマリットのマーモン、化学会社のルブリゾル、そして工作機械メーカーのIMCです。
また、これらパワーハウス・ファイブに、2015年に買収を発表した精密部品メーカーのプレシジョン・キャストパーツ・コープを加えて、“Powerhouse Six(パワーハウス・シックス)”になるとしています。その6ついずれもが、鉄道や電力といったインフラ事業を取り扱う企業や製造業、および、それを支える企業です。
バフェットが企業を買収する時の基準として掲げているのが(いわゆる「バークシャー基準」)、自社ですでに抱えている事業にフィットするかどうかということです。保険会社がインフラ事業に興味を持つのは、投資が長期にわたることを考えれば合理性があると言えますが、製造業については、十分に咀嚼できるかと言えばそうではありません。
ただ、そうした企業には単純に有価証券を保有するのではなく、保険会社であるバークシャーに取り込む形で、事業とバークシャーの企業価値を上げようとしているように見えます。では、インフラ事業と製造業には何か共通項はあるのでしょうか。
バフェットは米国の競争優位を確立できるような投資を狙っているのでは?
バフェットは、社会には永遠に莫大な投資を必要とする交通や電力が必要だと言っています。米国は先進国でありながら、インフラに関しては老朽化が進み効率性が落ちていると言われてきました。バフェットは、鉄道会社や電力会社が運営するインフラを更新するための設備投資の必要性を説いています。
実際に、BNSFは2015年に160億ドル(約1.7兆円)の設備投資を行い、バークシャー・ハサウェイ・エナジーも同額をこれまで再生可能エネルギーに投資してきました。特に、バークシャー・ハサウェイ・エナジーは、米国の7%に相当する風力発電のキャパシティ、6%に相当する太陽光発電のキャパシティを保有しています。
バフェットは、バークシャーのアニュアルレポートの中で、BNSFやバークシャー・ハサウェイ・エナジーの設備投資の規模の大きさだけではなく、その結果としての輸送コストや電力料金の競争力についても語っています。インフラの競争優位を確立することが、米国の経済成長の基盤を高めると考えているのでしょう。
では、バフェットはなぜ製造業に興味があるのでしょうか。筆者の推測は次の通りです。
米国は家電、パソコン、自動車等を含めて、一部のキーデバイスは引き続き競争優位を確立しているものの、製造業全体ではその競争力を失ってきたと見ています。製造業は、その技術やコストにおいて競争優位を確立することができなければ、継続性に欠けるのは多くの方が理解するところでしょう。
一方で、製造業は存在することで多くの雇用を生みます。そして雇用が生まれることで失業率が低下するだけではなく、国レベルで見た際の所得分配機能が働くことになります。米国が過度にICT産業にシフトしていくと、能力や生産性の高い一部の人材は所得が上昇するでしょうが、それ以外の多くの人々が仕事を失いかねません。バフェットはそのような米国を憂いているのではないでしょうか。
まとめ
バフェットがどのようなことを考えているか、それはバフェットに聞かなければわかりません。しかし、既に高齢のバフェットは、単純に投資リターンを最大化させるという視点だけではなく、米国という国レベルでいかに競争優位を継続的に確立していけるかという視点で投資をしているように見えます。
日本の個人投資家がバフェットのような投資をすることは難しそうですが、上述のようなバフェットの視点で日本の鉄道会社や電力会社、製造業を見ていくと、どのような投資アイデアに結びつくのでしょうか。
電力会社は原子力発電をどうするかという結論がつかないまま、電力自由化という流通領域の競争を仕掛けていますが、本質的な電気料金を考えるにあたっては電源構成の議論を待たなければなりません。
一方、鉄道会社に関しては、これからも首都圏に人口が集中し、効率的なコミュニティを確立させるという前提では、極めて重要なインフラとなります。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催やインバウンド需要の拡大等に伴い、外需の取り込みも十分可能となるでしょう。特に、鉄道会社で首都圏に拠点を置く企業は、長期投資の観点から見ても面白いと見ています。
製造業については、バークシャーがこれまで買収してきた会社群を見ると、精密加工やスペシャリティ・ケミカルといった領域にバフェットは興味がありそうです。これは、日本の製造業がこれまで進んできたトレンドともそう違いはありませんが、バフェットは特にその先端の企業を好んでいるように見えます。言い換えれば、先進国で製造業を営もうとすると、そうした領域でしか生き残ることができないのかもしれません。
日本には、バフェットのように長期で大規模な投資を戦略的に実行できる投資家が見当たらないのが悔やまれます。しかし、国や金融機関がそうした資金需要に合わせることができないのであれば、その長期の資金需要に個人投資家が戦略的に投資することが求められているような気もします。そうした後押しがNISA等で可能となればよいと思います。
※この記事は、個人投資家向け金融経済メディアLongine(ロンジン)で2016年4月26日に公開された記事を再編集したものです。
LIMO編集部