この記事の読みどころ
- 韓国大統領の弾劾訴追案が可決されました。今後の韓国経済の先行きが懸念される面もあります。また、万一、政権が野党に移行するといった事態に発展すれば、改善が見られていた日韓関係にも影響を与える可能性があります。
- しかしながら、韓国市場の動きを見ると比較的冷静で、たとえば韓国株式市場は弾劾訴追案可決後も落ち着いた動きとなっています。この記事では、韓国市場が現段階では落ち着いている背景を述べます。
韓国朴槿恵大統領:弾劾訴追案を韓国国会が可決、友人の国政介入問題で
韓国国会は2016年12月9日、朴槿恵大統領の弾劾訴追案を可決しました。同大統領が友人に国政への介入を許した問題は、政界と企業の癒着に対する国民の怒りが根強いことを示しています。
定数300の国会で弾劾訴追案には3分の2以上の賛成が必要でしたが、賛成234票、反対56票で可決しました。朴大統領は職権を停止され、与党セヌリ党の黄教安(ファン・ギョアン)首相が職務を代行します。
今後のシナリオとして考えられるのは以下の通りです。
朴大統領が自ら辞任する場合:大統領選が速やかに実施される可能性があります。
朴大統領が自ら辞任しない場合:憲法裁判所が180日以内に弾劾の合憲性を判断、9人の判事のうち少なくとも6人が合憲と判断した場合、弾劾が確定し、朴大統領は罷免され、60日以内に大統領選が行われる運びと思われます。
どこに注目すべきか:弾劾訴追、輸入物価、構造改革
韓国大統領の弾劾訴追案が可決されました。今後の韓国経済の先行きは不透明ながら韓国市場は冷静で、たとえば韓国株式市場は落ち着いた動きとなっています。また、信用力を示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドも低下(信用力改善)傾向となっています。この背景は次の通りと見ています。
1点目は、大統領弾劾プロセスとなったことで、政治空白が生まれにくくなったと見られることです。
韓国は景気が軟調で、金融もしくは財政政策の出動が期待されています。しかし、韓国当局は金融緩和にやや慎重であると見ています。理由は、トランプ次期大統領選出でアジア通貨が全般に下落する中、韓国ウォンも下落傾向であることです。そのため、輸入物価に上昇懸念が見られることなどから、利下げには慎重と見ています。
そうなると期待が高まるのが財政政策です。弾劾訴追案が可決される前のように、事態がズルズルと引き伸ばされる状態となると政治の空白が生まれ、財政政策の目処も立ちにくくなります。一方、弾劾プロセスとなれば、ファン・ギョアン首相が職務を代行することで政治が機能することも期待されます。
2つ目は、格付け会社の意見表明にあるように、韓国の信用力は弾劾プロセスを通じて低下する懸念は低いと見られていることです。
大手格付け会社の1つが、弾劾訴追案可決後に見通しを公表していますが、弾劾による韓国の信用力への影響は小幅と公表しています。
3つ目は、中長期的な話ですが、韓国の構造改革につながる期待です。
韓国は成長率の鈍化に直面しています。韓国の成長モデルは半導体などをキャッチアップする追いつき追い越せ型でしたが、今後は手本を探すのではなく、自らが最先端の事業を展開する必要に迫られています。この場合、韓国では伝統的に強い家族型より、新規ビジネスを立ち上げる創業企業が求められていますが、経済協力開発機構(OECD)のデータを見ると改革は遅れています。
韓国では政治が構造改革を進めるどころか、身内の優遇という古い政策から脱却できていないことを目にして、国民の怒りが大きくなったとも見られます。逆に言えば、ひょっとすると韓国の構造改革を進めるきっかけになるとの期待があるのかも知れません。
もっとも、懸念がないわけではありません。たとえば、朴大統領が辞任し、速やかに大統領選が実施され野党に政権が移行する可能性も考えられます。その場合、たとえば日本と韓国で合意した従軍慰安婦問題の解決に向けた対応を破棄することを求める野党『共に民主党』へと政権がシフトすれば日韓関係が後退する懸念もあります。
仮に大統領弾劾となっても、政権の枠組みに大きな変化はないと見込むならば今の市場の落ち着きはもっともな話と思われます。しかし、今後の展開には不透明な面もあり、日本へ飛び火する可能性もあることから、当面、韓国の政治動向には注意が必要です。